ドストエフスキーの賭博者に影響を与えた本
オノレ・ド・バルザック著「使い尽くされた情熱」
フョードル・ドストエフスキーの小説「賭博者」は、強迫的な賭博にのめり込んでいく若き家庭教師の物語です。この作品は、ドストエフスキー自身がルーレットに夢中になっていた時期に書かれたものであり、人間の欲望、依存症、道徳の複雑さを深く掘り下げた作品として知られています。ドストエフスキーのこの傑作に大きな影響を与えた作品の一つに、オノレ・ド・バルザックの「使い尽くされた情熱」があります。この小説は1845年に発表され、没落していく貴族の青年アルマンと、年上の女性ヘンリエッタとの恋愛模様を描いた作品です。
ドストエフスキーの「賭博者」とバルザックの「使い尽くされた情熱」の類似点は、テーマ、登場人物設定、舞台設定など、多岐にわたります。どちらの作品も、愛、お金、依存症というテーマを探求しており、主人公は強迫観念に駆られ、破滅的な結末へと向かっていきます。「使い尽くされた情熱」のアルマンは、ヘンリエッタへの愛にのめり込むあまり、自分の財産や社会的地位を失っていきます。「賭博者」のアレクセイ・イワノビッチもまた、ルーレットに夢中になるあまり、自分の生活と周囲の人間関係を破壊していきます。両方の登場人物は、自分の欲望に支配され、それが破滅の原因となっていくのです。
舞台設定の類似点も、「賭博者」に対する「使い尽くされた情熱」の影響を示唆しています。どちらの小説も、華やかでありながら危険な雰囲気を持つ、ヨーロッパの架空の都市を舞台としています。登場人物は、貴族階級や成り上がり者など、社会の様々な階層の人々です。こうした舞台設定の類似は、バルザックの作品がドストエフスキーに与えた影響の大きさを物語っています。
「使い尽くされた情熱」に登場する人物造形は、「賭博者」の登場人物、特に女性像に大きな影響を与えています。ヘンリエッタは、美しく、知性と魅力を兼ね備えた年上の女性であり、アルマンを虜にしていきます。同様に、「賭博者」に登場するポリーナ・アレクサンドロヴナも、謎めいた魅力を持つ女性であり、アレクセイを翻弄していきます。どちらの女性も、周囲の男性にとって憧れの的であり、破滅へと導く存在として描かれています。
ドストエフスキーはバルザックの熱心な読者であり、バルザックの作品から大きな影響を受けていました。「使い尽くされた情熱」に見られるテーマ、登場人物設定、舞台設定の類似点は、この作品が「賭博者」の創作に直接的な影響を与えたことを示唆しています。愛、お金、依存症、人間の心の奥底にある闇に対する鋭い洞察力は、両方の作品に通底するテーマであり、バルザックとドストエフスキーの作品を時代を超えて結びつけるものです。