## ドストエフスキーの貧しき人びとに関連する歴史上の事件
ドストエフスキーの処女作『貧しき人びと』は、1846年に発表されました。この作品は、貧困と社会的不平等というテーマを扱っており、当時のロシア社会における厳しい現実を反映したものでした。
帝政ロシアの社会状況
19世紀半ばのロシアは、ニコライ1世の治世下にありました。この時代は、農奴制や検閲制度など、厳しい社会体制が敷かれていました。
当時のロシア社会は、貴族階級と農奴、そして都市部の貧困層というように、明確な階級社会でした。貴族階級は、土地や財産を所有し、政治や経済においても大きな影響力を持っていました。一方、農奴は、土地に縛られ、貴族に隷属する存在でした。都市部の貧困層は、工場労働者や日雇い労働者などとして、不安定な生活を強いられていました。
『貧しき人びと』は、このような社会状況を背景に、貧困と社会的不平等がもたらす人々の苦しみや絶望を描いています。主人公のマカール・デヴーシキンは、貧しい下級官吏であり、生活のためにあくせく働いています。彼は、遠い親戚である若い女性、ヴァルヴァラ・ドブロセーロワを養っていますが、彼女もまた貧困に苦しんでいます。
ゴーゴリの影響と自然派文学
ドストエフスキーは、『貧しき人びと』を執筆する上で、ニコライ・ゴーゴリの影響を強く受けています。ゴーゴリは、『外套』や『鼻』などの作品で、社会の矛盾や人間の滑稽さを鋭く描いた作家です。ドストエフスキーは、ゴーゴリの作品から、社会の底辺で生きる人々の現実を描くことの重要性を学びました。
また、『貧しき人びと』は、当時のロシア文学において台頭していた自然派文学の影響も受けています。自然派文学は、フランスの作家エミール・ゾラなどを代表とし、人間の行動や心理を遺伝や環境などの要因から科学的に分析しようとする文学思潮です。ドストエフスキーは、自然派文学の手法を取り入れ、貧困や社会的不平等が人間の心理に及ぼす影響をリアリズムの手法で描いています。
検閲制度と社会への影響
『貧しき人びと』は、当時のロシア社会で大きな反響を呼びました。批評家ヴィссаリオン・ベリンスキーは、この作品を高く評価し、「新しいゴーゴリの出現」と絶賛しました。
しかし、一方で、この作品は、当時のロシアの検閲制度から厳しい目を向けられました。検閲官たちは、この作品が貧困や社会的不平等を描きすぎているとみなし、一部の内容を削除するように要求しました。
それでも、『貧しき人びと』は、多くの読者の共感を集め、ドストエフスキーは一躍、時代の寵児となりました。この作品は、後のロシア文学にも大きな影響を与え、フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキーの代表作の一つとして、今日まで読み継がれています。