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ドストエフスキーの悪霊の思想的背景

## ドストエフスキーの悪霊の思想的背景

1860年代のロシアの思想状況

ドストエフスキーが「悪霊」を執筆した1860年代のロシアは、社会全体が大きく揺れ動いていた時代でした。1861年の農奴解放令によって社会構造が大きく変化し、それに伴い様々な思想が台頭してきました。

* **ニヒリズムの流行:** ピサレフやチェルヌィシェフスキーといった思想家を中心に、従来の道徳や権威を否定するニヒリズムが若者の間で広く支持されました。彼らは、理性に基づいた科学や社会改革によって理想社会を実現できると信じていました。
* **急進主義とテロリズム:** 一部の若者たちは、ニヒリズムからさらに進んで、暴力革命によって社会を変革しようと試みました。彼らは秘密結社を結成し、政府要人へのテロ活動を実行しました。
* **スラブ主義と西欧主義の対立:** ロシアの将来像をめぐって、西欧の文化や制度を導入すべきだとする西欧主義と、ロシア独自の伝統や精神性を重視するスラブ主義が対立していました。

ドストエフスキーの思想的立場

ドストエフスキーは、このような時代の流れの中で、ロシア社会の行く末に深い不安を抱いていました。彼は、ニヒリズムや急進主義がもたらす暴力と破壊を強く批判し、伝統的な宗教や道徳の重要性を訴えました。

* **ニヒリズムへの批判:** ドストエフスキーは、ニヒリズムが人間の精神的な根拠を破壊し、社会に混乱と虚無をもたらすと考えました。「悪霊」では、ニヒリズムに傾倒した登場人物たちの思想や行動を描き出すことで、その危険性を警告しています。
* **宗教と道徳の重視:** ドストエフスキーは、理性のみを絶対視するニヒリズムに対して、信仰と道徳の重要性を説きました。彼は、人間は神への信仰と倫理的な規範によってのみ、真の自由と幸福を獲得できると信じていました。
* **ロシアの運命への憂慮:** ドストエフスキーは、当時のロシアが西欧思想の影響を受け、伝統的な価値観を失いつつあることを危惧していました。「悪霊」では、ロシア社会が抱える矛盾や危機を象徴的に描くことで、その将来に対する不安を表現しています。

「悪霊」における思想的対立

「悪霊」は、1860年代のロシア思想界を舞台に、様々な思想を持つ登場人物たちが織りなす群像劇です。作品内では、ドストエフスキー自身の思想を反映した登場人物と、彼が批判の対象とした思想を持つ登場人物たちが対立し、激しく議論を交わします。

* **スタヴローギンとシャートフ:** ニヒリズムに傾倒しながらも、その空虚さに苦悩するスタヴローギンと、かつてはニヒリストでしたが後に信仰に回帰するシャートフは、当時のロシアのインテリゲンチャの思想的葛藤を象徴しています。
* **ヴェルホーヴェンスキー父子:** 革命を扇動する陰謀家ピョートル・ヴェルホーヴェンスキーとその父ステパンは、当時の急進主義者やニヒリストを風刺した人物として描かれています。
* **ゾシマ長老:** ロシア正教の敬虔な修道士であるゾシマ長老は、ドストエフスキー自身の思想を代弁する人物として登場します。

「悪霊」は、単なる思想小説ではなく、登場人物たちの葛藤や苦悩を通して、人間の心の奥底を探求した作品でもあります。ドストエフスキーは、人間の自由意志、罪と救済、愛と憎しみといった普遍的なテーマを、当時のロシアの社会状況と結びつけながら描き出しています。

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