## ドストエフスキーの分身の評価
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批評家や研究者からの評価
ドストエフスキーの『分身』は、発表当初(1846年)は、文芸批評家や読者から賛否両論の評価を受けました。一部の批評家は、その幻想的でグロテスクな描写や、主人公の精神状態の描写を高く評価しました。例えば、批評家ベリンスキーは、本作を「新しい言葉の発見」と呼び、ドストエフスキーの才能を高く評価しました。
一方で、多くの批評家は、本作の複雑な構成や、主人公の異常な心理描写に戸惑い、否定的な評価を下しました。彼らは、本作が読者に不快感を与えることを指摘し、文学作品としての完成度を疑問視しました。
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時代背景と評価の変化
19世紀半ばのロシアでは、リアリズム文学が主流であり、幻想的な要素を含む『分身』は、当時の文学的潮流からは異質な作品として受け止められました。しかし、20世紀に入ると、フロイトの精神分析学の影響などもあり、人間の深層心理を描いた作品が注目されるようになります。
こうした時代背景の変化に伴い、『分身』は再評価され、現代社会における疎外やアイデンティティの喪失を描いた先駆的な作品として認められるようになりました。特に、実存主義文学の先駆としての側面が注目され、カミュやサルトルなどの作家にも影響を与えたとされています。
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文学史における位置づけ
『分身』は、ドストエフスキーの初期の作品であり、後の代表作である『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』といった長編小説と比べると、スケールやテーマの深さにおいて見劣りする点は否めません。
しかし、分身というモチーフや、人間の深層心理に迫る作風は、後のドストエフスキー文学を特徴づける重要な要素であり、その後のロシア文学、ひいては世界文学に大きな影響を与えた作品として、高い評価を得ています。