## トールキンのホビットの冒険から学ぶ時代性
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小さな存在の勇気と自己成長
ホビットの冒険の主人公ビルボ・バギンズは、ホビット庄という閉鎖的な田舎で、先祖代々の家に住み、変化を好まない典型的なホビットとして描かれています。これは、第一次世界大戦後のイギリス社会が抱えていた閉塞感や、新しい時代への不安を反映していると言えるでしょう。戦争の傷跡が生々しい時代において、人々は冒険よりも安全と安定を求めたがる風潮がありました。ビルボも当初は冒険に全く興味を示さず、むしろ危険を避けることばかりを考えていました。
しかし、ガンダルフとの出会いをきっかけに、ビルボは冒険に巻き込まれ、ドワーフたちと共に危険な旅路を進むことになります。この旅を通して、ビルボはホビット庄という小さな世界から飛び出し、様々な困難に立ち向かう中で、勇気と機転、そして自己犠牲の精神を身につけていきます。これは、変化を恐れずに新しい世界へ踏み出すことの重要性、そして困難に立ち向かうことで成長できるという、当時の読者に向けたメッセージとも受け取れます。
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産業革命と自然との対比
ホビットの冒険では、自然豊かなホビット庄と、機械文明が進んだドワーフの王国、そして荒涼とした危険な場所が対比的に描かれています。ホビット庄は、産業革命以前の牧歌的なイギリスの田園風景を思わせる、自然と調和した理想郷として表現されています。一方、ドワーフの王国は、産業革命によって発展した工業都市を彷彿とさせ、自然破壊や環境問題といった負の側面も示唆しています。
これは、トールキン自身が自然を愛し、産業革命によって自然が破壊されていく様子を憂いていたことに起因すると考えられています。ホビットの冒険を通して、トールキンは、進歩と引き換えに失われていくもの、そして自然との共存の大切さを訴えかけているのかもしれません。
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戦争の影と英雄像
ホビットの冒険は、直接的には戦争を描いた物語ではありませんが、随所に戦争の影が感じられます。例えば、ゴブリンやオークといった怪物たちは、戦争によって生まれた憎しみや暴力衝動を象徴しているように思えます。また、ドワーフたちの王国を奪ったスマウグは、強大な力を持つが故に周囲に不幸をもたらす存在として描かれており、戦争によって国や家族を失った人々の怒りや悲しみを体現しているとも解釈できます。
このような戦争の影は、第一次世界大戦を経験したトールキン自身の体験が色濃く反映されていると言えるでしょう。戦争の悲惨さを知るトールキンは、真の英雄とは、武力ではなく、知恵や勇気、そして自己犠牲の精神によって困難を乗り越える者であるというメッセージを込めて、ビルボの冒険を描いたのかもしれません。