トルストイの復活の原点
トルストイの精神的危機と社会への目覚め
「復活」の執筆背景には、トルストイ自身の深遠な精神的危機と、当時のロシア社会への痛烈な批判意識が大きく関わっています。1880年代、トルストイは自身の裕福な貴族生活と、農奴制の名残を残すロシア社会の矛盾に深く苦悩していました。彼は従来の宗教観や道徳観に疑問を抱き、人間の真の幸福とは何かを追求し始めます。この苦悩と探求の過程が、「復活」の根底に流れるテーマとなっています。
現実の裁判事件との関連性
「復活」の着想は、トルストイが友人の裁判官から聞いた実際の事件に由来すると言われています。それは、ある男がかつて誘惑した女性が売春婦に身を落とし、自分を陥れたとして彼を訴えたという事件でした。トルストイはこの話を聞き、人間の罪と贖罪、そして社会の不条理というテーマに強く心を惹かれました。
初期草稿「復活」と構想の変化
トルストイは1889年に「復活」の初期草稿を書き始めますが、当初の構想は完成作とは大きく異なっていました。初期の構想では、主人公ネフリュードフは貴族社会の偽善に絶望し、革命運動に身を投じるという展開が考えられていました。しかし、トルストイはその後、革命による社会変革よりも、個人の内面的な変革こそが重要であるという考えを強め、物語は大きく方向転換していきます。