トルストイの復活が映し出す社会
レフ・トルストイの小説『復活』は、1899年に発表された作品で、彼の晩年の代表作の一つです。この作品は、トルストイ自身の宗教的および倫理的覚醒を反映しており、ロシア社会の不正と貧困、そして個人の道徳的責任を深く掘り下げています。
ロシア社会の不平等と法制度の問題点
『復活』の物語は、貴族出身の主人公ネヒリュードフが、かつての恋人であるカチューシャ（本名マスロワ）が冤罪で投獄される様子を追います。この物語を通じて、トルストイはロシアの司法制度の腐敗と、社会的階層間の深刻な不平等を批判します。貧困層が直面する法的な不利益と、裕福な階級の利益を優先する体制が描かれることで、社会全体の道徳的・倫理的問題が浮き彫りにされます。
個人の道徳的覚醒と社会改革の可能性
主人公ネヒリュードフの変貌は、トルストイが提唱する個人の道徳的覚醒と、それによる社会改善の可能性を象徴しています。ネヒリュードフは、カチューシャへの過去の仕打ちに対する罪悪感と、自身の社会的地位に疑問を持ち始めます。この心の変化が、彼の行動と生き方に大きな転換をもたらし、最終的にはより公正な社会を目指す行動に繋がっていきます。トルストイは、個人が内面から変わることで、外の世界も変えられるというメッセージを強調しています。
トルストイの倫理的・宗教的視点
トルストイ自身の宗教観と倫理観が、『復活』には色濃く反映されています。彼はキリスト教の教えを独自の解釈で捉え直し、非暴力と財産放棄を説いたことで知られています。この小説では、主人公が真のキリスト教の教えに目覚め、物質的な富や肉体的な欲望を超えた生き方を求める過程が描かれています。この点が、トルストイが理想とする社会改革の基盤となっています。
トルストイの『復活』は、単なる物語性を超えて、当時のロシア社会の病理を鋭くつき、個人の覚醒を通じてより公正で倫理的な社会を目指すべきだと訴える作品です。この小説を通じて、トルストイは読者自身の心にも問いかけ、内省を促すことに成功しています。