## トルストイのセヴァストーポリ物語の思考の枠組み
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戦争の現実に対する醒めた目
「セヴァストーポリ物語」は、当時の戦争文学の主流であった、英雄主義や愛国心に彩られた美化された戦争観とは一線を画し、戦争の残虐性、虚無感、そして兵士たちの置かれた悲惨な状況を、ありのままに描き出しています。
トルストイは自身の従軍経験に基づき、戦場の生々しい描写、負傷者の苦しみ、死の遍在など、戦争の現実を克明に描き出すことで、読者に戦争の真の姿を突きつけます。
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人間心理の深淵への洞察
本作では、戦争という極限状態における人間心理が、様々な登場人物の視点から鋭く描かれています。恐怖、不安、絶望、虚栄心、愛国心、自己犠牲など、複雑に交錯する人間の感情を、トルストイは繊細かつ容赦なく描き出しています。
特に、戦死への恐怖、出世欲、名誉欲に駆られる将校たちの心理、そして彼らと対比的に描かれる、死を身近に感じることで生への執着を強める兵士たちの姿は、人間の心の奥底に潜む真実を浮き彫りにしています。
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社会批判とヒューマニズム
「セヴァストーポリ物語」は、戦争を賛美する風潮や、上層階級の無関心さに対する、トルストイの強い批判精神が込められた作品でもあります。
彼は、戦争を正当化する愛国主義や英雄主義といったイデオロギーを虚偽だと見抜き、それがもたらす悲劇を告発しています。 また、前線で戦う兵士たちの苦しみをよそに、無責任な言動を繰り返す上層階級の人々の姿を対比させることで、社会の不条理と人間のエゴイズムを浮き彫りにしています。
その一方で、トルストイは苦難の中にあっても、助け合い、慈しみ合う人間の美しい側面も描いています。 それは、戦争という極限状態においても失われることのない、人間本来の善性への希望を示唆していると言えるでしょう。