## トゥエインの『ハックルベリー・フィンの冒険』の思想的背景
１．南北戦争後のアメリカ南部と再建期の現実
『ハックルベリー・フィンの冒険』は1884年に出版されましたが、物語の舞台は南北戦争以前の1830～40年代のアメリカ南部です。トゥエインは、当時の社会にまだ色濃く残る奴隷制の残虐性や道徳的偽善を、ハックとジムの逃避行を通して浮き彫りにしています。
２．ロマン主義に対する批判
トゥエインは、当時のアメリカ文学界で流行していたロマン主義の理想主義的な傾向に対して、批判的な立場をとっていました。ハックの冒険を通して、現実社会の厳しさや人間のエゴイズムを描き出し、ロマン主義的な幻想を打ち砕こうとしたと言えるでしょう。
３．自然と文明の対比
ハックとジムにとって、ミシシッピ川は自由と冒険の象徴であると同時に、社会の束縛から解放される空間でもあります。一方、陸地で遭遇する人間社会は、偽善や暴力に満ちた場所として描かれ、自然と文明の対比が鮮明にされています。
４．当時の社会における人種差別
トゥエインは、当時のアメリカ社会に蔓延していた人種差別を、ハックと逃亡奴隷ジムの交流を通して鋭く批判しています。ハックは、当初は社会通念に従ってジムを「所有物」と見なしますが、旅を続けるうちにジムの人間性に触れ、偏見を捨てていく様子が描かれています。
５．教育と自己形成
ハックは、学校教育を受けていない少年ですが、冒険を通して様々な経験を積み重ねることで、自ら考え、判断する力を身につけていきます。トゥエインは、既存の道徳観や価値観にとらわれず、自分の頭で考えることの重要性を訴えかけていると言えるでしょう。