デュルケームの宗教生活の原初形態の関連著作
ジェームズ・フレイザー『金枝篇』
イギリスの人類学者ジェームズ・フレイザーの著した『金枝篇』は、1890年から1915年にかけて全12巻で出版された、神話学、宗教史、文化人類学を網羅する大著です。デュルケームの『宗教生活の原初形態』(1912年)とほぼ同時代に執筆され、未開社会から現代社会にいたるまでの宗教的思考と儀式の進化を論じた点で共通しています。
フレイザーは、世界各地の神話や儀礼を比較研究することで、人類の思考様式が「呪術」→「宗教」→「科学」という段階を経て発展してきたと主張しました。彼は特に、王や祭司といった聖なる人物が、豊穣や生命力と結びつけられ、その死と再生を通して自然のサイクルを象徴すると考えました。
デュルケームは『宗教生活の原初形態』の中で、『金枝篇』を高く評価しつつも、フレイザーの理論に対していくつかの批判を加えています。特に、フレイザーが「呪術」を「誤れる因果律に基づく行為」と定義している点を批判し、呪術も宗教と同様に社会的な機能を持つことを指摘しています。
マルセル・モース『贈与論』
フランスの人類学者マルセル・モースは、デュルケームの甥であり、彼の思想に大きな影響を受けました。1925年に発表された『贈与論』は、ポリネシアや北アメリカの先住民社会における贈与の慣習を分析し、そこに見られる「互酬性」の原理を明らかにした古典的な著作です。
モースは、贈与は単なる経済行為ではなく、贈る者と受け取る者の間に社会的な絆を築き、維持するための重要な役割を果たすと論じました。彼はまた、贈与には「返す義務」が伴い、その義務を果たすことを通して社会的な秩序が保たれていることを指摘しました。
デュルケームは『宗教生活の原初形態』の中で、宗教儀礼が社会的な結束を強化する機能を持つことを強調しました。『贈与論』は、宗教儀礼以外の社会現象においても、同様の機能が働いていることを示唆する点で、デュルケームの社会学理論を補完する意義を持つと言えるでしょう。