## デュルケームの宗教生活の原初形態の価値
デュルケームの社会学における位置づけ
エミール・デュルケームは、マックス・ウェーバー、カール・マルクスと並んで、社会学の創始期の三大巨匠の一人とされています。彼は、社会学を独自の学問分野として確立するために、社会を科学的に研究するための方法論を確立することに尽力しました。彼の主要な著作である「自殺論」、「社会分業論」、「宗教生活の原初形態」は、社会学における古典として、現代社会の理解に不可欠な視点を提供し続けています。
『宗教生活の原初形態』の概要
1912年に出版された『宗教生活の原初形態』は、デュルケームの関心の根底にあった社会の統合という問題に対する、晩年の集大成ともいえる著作です。彼は、宗教という現象を、社会の起源と本質に深く関わっているものと捉え、その分析を通じて社会の根本原理を明らかにしようと試みました。
オーストラリア・トーテミズムの分析
デュルケームは、宗教の起源と本質を探求するために、当時の民族誌資料の中でも最も原始的と考えられていたオーストラリアのアボリジニ社会におけるトーテミズムを分析対象としました。彼は、トーテミズムに見られる聖と俗の区別、儀礼、信仰体系といった要素が、より複雑な宗教形態の原型となっていると考えたのです。
集団表象と社会の結合力
デュルケームは、トーテミズムの分析を通じて、宗教が集団の成員によって共有される「集団表象」を生み出す重要な役割を果たしていると論じました。彼は、集団的な儀礼や儀式への参加を通じて、人々が共通の感情や価値観を共有し、社会的な結束が強化されると考えました。
宗教の社会的機能
デュルケームは、宗教を単なる迷信や幻想として片付けるのではなく、社会の統合と秩序の維持に不可欠な機能を果たすものとして捉えました。彼によれば、宗教は、人々に共通の価値観や道徳規範を提供することで、社会の安定と存続に貢献してきたのです。
現代社会への示唆
デュルケームの宗教論は、現代社会における宗教の衰退と、それに伴う社会の統合の危機という問題を考える上でも重要な示唆を与えてくれます。彼は、宗教が衰退したとしても、社会的な結束を維持するために、人々を結びつける共通の価値観や道徳規範が必要であることを示唆しました。