## デュマのモンテ・クリスト伯の思想的背景
復讐と正義
「モンテ・クリスト伯」の主要なテーマの一つは、復讐と正義の関係です。主人公エドモン・ダンテスは、無実の罪で投獄され、14年間もの間、自由と愛する人を奪われます。脱獄後、彼は莫大な財産と「モンテ・クリスト伯」という新たな身分を手に入れ、自分を陥れた者たちに復讐することを誓います。
作中では、ダンテスの復讐劇を通して、個人的な復讐と社会的な正義の境界線が曖昧に描かれています。ダンテスは自らを「神の代理人」と称し、復讐は神の意志だと主張しますが、その一方で、彼の行動は私怨によるものとも解釈できます。読者は、ダンテスの復讐行為が正当化されるのか、それとも彼自身もまた罪を犯しているのか、自問自答することになります。
社会的不平等と階級闘争
19世紀フランス社会の背景には、フランス革命後の社会不安や階級間の対立構造が存在しました。デュマ自身、父親が将軍としてナポレオンに仕えていたものの、彼の死後、一家は貧困に苦しんだ経験を持つなど、社会的不平等を身をもって経験しています。
「モンテ・クリスト伯」では、当時の社会における富裕層の腐敗や道徳的退廃が描かれています。ダンテスを陥れた者たちは、私利私欲のために権力を利用し、法や道徳を無視した行動を取ります。彼らの姿は、当時のフランス社会における腐敗した上流階級を象徴していると言えるでしょう。
ロマン主義
「モンテ・クリスト伯」は、19世紀前半にヨーロッパを中心に流行したロマン主義の影響を強く受けています。 ロマン主義は、理性や合理主義よりも、感情、想像力、個人の自由を重視する思想です。
ダンテスの壮絶な復讐劇、エキゾチックな舞台設定、劇的な展開、登場人物たちの激しい愛情表現などは、当時の読者にとって非常に魅力的なものでした。 また、作中には、人間の善と悪、愛と憎しみ、絶望と希望といった、普遍的なテーマが描かれており、それが時代を超えて愛される理由の一つとなっています。