## デフォーのロビンソン・クルーソーを深く理解するための背景知識
１．著者ダニエル・デフォーについて
ダニエル・デフォー（1660年頃-1731年）は、イギリスの作家、ジャーナリスト、スパイとして活躍した人物です。ロンドンで裕福なろうそく製造業者の息子として生まれ、商人としての経験を積みながら、政治パンフレットの執筆や政府のスパイ活動など、多岐にわたる活動を行いました。彼の作品は、当時の社会状況や政治的な問題を反映しており、ジャーナリズム的な視点とリアリティのある描写が特徴です。デフォーは多作な作家であり、小説以外にも、経済論、歴史書、旅行記など、様々なジャンルの作品を執筆しています。晩年は借金に苦しみ、逃亡生活を送りながら執筆活動を続けました。
２．ロビンソン・クルーソーの出版と影響
『ロビンソン・クルーソー』は、1719年に出版されたデフォーの代表作です。正式なタイトルは『ヨーク出身の船乗りロビンソン・クルーソーの生涯と驚くべき冒険の物語、彼が28年間、アメリカ海岸沖のオリノコ川の河口付近の無人島でたった一人で過ごし、ついに海賊によって思いがけず救出されるまでの物語。彼自身の筆によって書かれたもの』です。この作品は、実在の船乗りアレクサンダー・セルカークの無人島生活を元に創作されたと言われています。セルカークは、4年4か月を無人島で過ごしたのち、1709年に救出されました。デフォーはセルカークの体験談に、自身の想像力や社会的なメッセージを織り交ぜ、魅力的な物語に仕上げました。
『ロビンソン・クルーソー』は、出版当時から大きな反響を呼び、たちまちベストセラーとなりました。この作品は、ヨーロッパ文学における最初の近代小説とされており、リアリズムの手法を用いた冒険物語の先駆けとなりました。また、植民地主義や資本主義、個人主義といったテーマを扱っていることから、社会思想史や文学史においても重要な作品として位置づけられています。
３．18世紀初頭のイギリス社会
『ロビンソン・クルーソー』が書かれた18世紀初頭のイギリスは、社会や経済が大きく変化する時代でした。産業革命の初期段階にあり、商業や貿易が活発化し、資本主義が発展しつつありました。また、海外進出にも積極的で、北アメリカやカリブ海などに植民地を拡大していました。このような時代背景は、作品の内容にも反映されています。主人公ロビンソン・クルーソーは、冒険心と商売の才能を持ち、海外貿易で富を築こうとします。また、無人島で自給自足の生活を送り、植民地支配者のように原住民フライデーを従わせる描写は、当時の植民地主義的な思想を反映していると言えます。
４．ピューリタニズムとプロテスタントの労働倫理
デフォー自身はピューリタンの家庭に育ち、プロテスタントの労働倫理の影響を強く受けていました。ピューリタニズムは、勤勉さ、倹約、禁欲などを重視する宗教思想です。プロテスタントの労働倫理は、労働を神から与えられた使命と捉え、勤勉に働くことを美徳とする考え方です。
『ロビンソン・クルーソー』では、主人公が無人島で懸命に労働し、自力で生活基盤を築き上げていく様子が描かれています。これは、プロテスタントの労働倫理を体現したものであると解釈できます。ロビンソンは、神への信仰を持ち、困難な状況にもくじけずに努力を続けます。彼の行動は、当時の読者にとって、勤勉さや自助努力の大切さを示す教訓的な物語として受け止められたと考えられます。
５．植民地主義と帝国主義
18世紀のイギリスは、世界各地に植民地を拡大し、帝国主義政策を進めていました。『ロビンソン・クルーソー』は、当時の植民地主義的な思想を反映した作品としても解釈されています。主人公ロビンソンは、無人島を自分の領土のように支配し、原住民フライデーを奴隷のように扱います。
ロビンソンは、フライデーにヨーロッパ的な文化やキリスト教を教え込み、彼を「文明化」しようとします。このような描写は、ヨーロッパ人が非ヨーロッパ人を劣った存在とみなし、支配することを正当化する植民地主義的な考え方を示しています。
６．旅行記と冒険小説の伝統
『ロビンソン・クルーソー』は、当時の旅行記や冒険小説の伝統を受け継いだ作品でもあります。18世紀には、ヨーロッパ人が世界各地を探検し、その体験を記した旅行記が人気を集めていました。また、海賊や探検家などの冒険を描いた小説も盛んに書かれていました。
『ロビンソン・クルーソー』は、リアリティのある筆致で無人島での生活を描写し、読者に冒険の臨場感を味わわせています。また、主人公が様々な困難を乗り越え、成長していく姿は、読者に勇気を与え、冒険心を刺激するものとなっています。
これらの背景知識を踏まえることで、『ロビンソン・クルーソー』をより深く理解し、作品の魅力を多角的に味わうことができるでしょう。
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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。