デフォーのモール・フランダースの思索
モール・フランダースにおける道徳と社会の矛盾
ダニエル・デフォーの小説『モール・フランダース』は、18世紀初頭のイギリス社会を背景に、一人の女性が様々な苦難を経験しながらもしたたかに生き抜く姿を描いています。モリーが置かれた過酷な状況、そして彼女が行う盗みや結婚詐欺といった行為の数々は、当時の社会における道徳観念と現実の厳しさを浮き彫りにしています。
モリーの生い立ちは、彼女がいかに過酷な現実に直面していたかを示す重要な要素です。孤児として生まれ、貧困の中で育ったモリーにとって、社会は決して優しいものではありませんでした。幼い頃から労働を強いられ、まともな教育も受けられないまま大人になった彼女には、自らの生活を向上させるための選択肢が限られていました。
自己認識と自己正当化のジレンマ
モリーは自身の置かれた状況を冷静に分析し、生き残るためには手段を選ばないという現実的な判断を下します。彼女は自らの行為を正当化しようとしますが、同時に罪悪感や良心の呵責に苛まれる様子も描かれています。モリーの心の葛藤は、人間の本質的な矛盾や、社会の道徳観念と個人の生存欲求とのせめぎ合いを浮き彫りにしています。
彼女は幾度となく改心と堕落を繰り返しながら、常に自分の行動を正当化しようとします。この自己正当化は、モリーが置かれた社会状況や当時の道徳観を考慮すれば、必ずしも自己中心的で身勝手なものとは言えません。彼女は自分の境遇を嘆きながらも、現状を打破するために必死に足掻き続けているのです。
物質主義と社会的地位への執着
モリーは物質的な豊かさや社会的地位を強く求める人物として描かれています。彼女は裕福な男性との結婚を繰り返し、贅沢な暮らしを手に入れようとします。この物質主義的な態度は、当時の社会が階級社会であり、経済的な成功が個人の価値を大きく左右していたことを反映しています。
モリーにとって、経済的な安定は単なる物質的な豊かさだけでなく、精神的な安心感や社会的な承認を得るための手段でもありました。彼女は貧困の中で味わった屈辱や不安定さを克服するために、経済的な成功を目指していたとも解釈できます。