デフォーのモール・フランダースの価値
モラルの曖昧さと社会の矛盾
『モール・フランダース』は、18世紀初頭のイギリス社会を背景に、孤児として生まれ、様々な苦難を経て、最終的には泥棒、売春婦という道を選ばざるを得なかった女性、モール・フランダースの生涯を描いた作品です。デフォーは、モールの視点から彼女の行動を克明に描き出すことで、当時の社会におけるモラルの曖昧さと矛盾を浮き彫りにしています。
モールは、貧困から逃れるため、あるいは社会的に成功するため、時に倫理的に問題のある選択をせざるを得ません。彼女は自分の境遇を嘆きながらも、したたかに生き抜こうとする姿を見せます。デフォーは、モールの行動を単純に善悪で断じるのではなく、当時の社会構造や価値観の中で彼女が置かれていた状況を詳細に描写することで、読者にモラルとは何か、正義とは何かを問いかけています。
写実的な描写と社会風刺
デフォーは、当時の社会や風俗を写実的に描写することに長けていました。『モール・フランダース』においても、ロンドンやアメリカの植民地といった様々な場所を舞台に、登場人物たちの生活や人間関係が生き生きと描かれています。
特に注目すべきは、当時の社会問題であった貧困、犯罪、売春などがリアルに描かれている点です。デフォーは、社会の暗部を隠すことなく描き出すことで、当時のイギリス社会が抱えていた問題を浮き彫りにし、鋭く風刺しています。
先駆的な女性像
『モール・フランダース』は、当時の文学作品としては珍しく、女性の視点から物語が展開される点が画期的です。主人公のモールは、男性中心の社会の中で、自らの意志と行動力で運命を切り開こうとする、自立心の強い女性として描かれています。
彼女は、社会のしきたりや偏見に屈することなく、自分の欲望や野心に正直に生きます。当時の読者にとって、モールの生き方は衝撃的であったと同時に、女性の社会進出が叫ばれる現代においても、その力強さは色褪せることはありません。