デフォーのモール・フランダースが扱う社会問題
女性を取り巻く社会的、経済的現実
モール・フランダースでは、女性が経済的に自立するのが困難な当時の社会がリアルに描かれています。主人公のモールは、裕福な家に生まれることを切望しながらも、貧困や孤児としての境遇に翻弄され、最終的には売春に身を落とさざるを得ない状況に追い込まれます。当時の女性にとって、結婚は経済的な安定を得るためのほぼ唯一の手段であり、モールの数々の結婚と、その裏にある打算や計算は、当時の女性の厳しい現実を浮き彫りにしています。
階級社会の厳しさ
作中には、上流階級の道徳観の欠如や偽善が描かれ、モール自身もその犠牲者となります。一方で、貧困層もまた、犯罪や堕落に手を染めやすく、モールもまた、その現実から逃れられません。デフォーは、当時の社会における階級の固定化と、それが人々の行動や道徳観に与える影響を生々しく描いています。
植民地主義と奴隷制度
モールが辿り着くアメリカの植民地は、当時のイギリス社会におけるフロンティア精神と、同時にその裏に潜む搾取の構造を象徴しています。モールは、植民地においてもそのしたたかさを発揮し、成功を収めますが、それは同時に、先住民や奴隷といった、当時の植民地主義の犠牲の上に成り立っているものでした。デフォーは、当時のイギリス社会が享受していた繁栄の影に隠された、植民地主義と奴隷制度の暗部を浮き彫りにしています。