デフォーのモール・フランダースから学ぶ時代性
モラルと社会の矛盾
ダニエル・デフォーの小説『モルフランダースの冒険』は、17世紀末から18世紀初頭のイギリス社会におけるモラルと現実の矛盾を鮮やかに描き出しています。主人公モルフランダースは、貧困から抜け出すために盗みや結婚詐欺など、あらゆる手段を尽くす女性です。当時の社会では、女性は経済的に男性に依存せざるを得ず、モールの行動は、当時の社会構造が生み出した悲劇として描かれています。
経済発展と貧困問題
デフォーは、当時のイギリスが経験していた経済発展と貧困問題の深刻化にも目を向けています。産業革命の萌芽が見られる一方で、都市部では貧困層が増加し、モールの置かれた状況は決して特殊なものではありませんでした。小説は、華やかな経済発展の影で、多くの人々が貧困に苦しんでいた現実を浮き彫りにしています。
植民地主義と奴隷貿易
モルフランダースは、物語の中でアメリカ植民地ヴァージニアに渡り、そこで裕福な農園主と結婚します。このエピソードは、当時のイギリス社会における植民地主義と奴隷貿易の広がりを反映しています。モールの夫は、農園で奴隷を働かせて利益を得ており、モルフランダース自身も、奴隷制の恩恵を受ける立場になります。デフォーは、モールの物語を通して、植民地主義と奴隷貿易がもたらす倫理的な問題を提起しています。
女性への抑圧と解放への模索
モルフランダースは、当時の社会において女性に課せられた厳しい規範と、自身の欲望との間で葛藤します。彼女は、男性優位の社会の中で、自身の経済的な自立と自由を求めて行動します。モールの生き方は、当時の女性が直面していた抑圧と、そこから抜け出そうとする解放への模索を象徴しています。
宗教と道徳観の変化
デフォーは、当時のイギリス社会における宗教観と道徳観の変化にも触れています。モルフランダースは、罪を犯しながらも、常に神の許しを求めています。これは、当時の社会に根強く残っていた宗教的な価値観を示しています。一方、モールの行動は、従来の道徳観念からは逸脱しており、宗教と世俗的な価値観との間の揺らぎを反映しています。