Skip to content Skip to footer

デフォーの『モール・フランダース』と言語

デフォーの『モール・フランダース』と言語

モール・フランダースにおける言語とアイデンティティ

『モール・フランダース』では、言語は単なるコミュニケーションの道具ではなく、社会における主人公の位置づけや変遷を反映する重要な要素として描かれている。モールは孤児、窃盗団の一員、裕福な婦人、植民地の農園主の妻、そして再び盗賊へと、人生の中で様々な役割を演じ、その度に異なる社会的立場の人々と関わりを持つ。彼女の使用する言語は、それぞれの状況に合わせて変化し、相手との力関係や彼女の置かれた環境を反映している。

階級と方言

デフォーは、登場人物の社会的地位や出身を表現するために、当時の社会における階級と方言の関連性を巧みに利用している。上流階級の人物は洗練された言葉遣いをし、教養の高さを伺わせる一方、下層階級の人物は粗野な言葉遣いや俗語を交えて話す。モール自身も、孤児院で育った際には粗野な言葉遣いをしていたが、上流社会に身を置くようになると洗練された言葉遣いを身につける。このように、言語はモールの社会的な上昇と下降を象徴的に表す要素となっている。

欺瞞と自己演出

モールは目的を達成するため、あるいは自分の身を守るため、しばしば嘘をついたり、自分を偽ったりする。その際、言語は彼女にとって重要な道具となる。彼女は巧みな話術で相手を騙し、自分の望むものを手に入れようとする。また、異なる立場の人間と接する際には、それぞれの状況にふさわしい言葉遣いを選択し、相手に自分を有利なように印象づけようとする。このように、モールにとって言語は自己演出の手段であり、欺瞞と密接に結びついている。

沈黙と告白

小説全体を通して、モールは自分の過去や罪について沈黙を守ろうとする場面が何度か見られる。これは、当時の社会において、女性が自分の罪を告白することの危険性を示唆している。しかし、最終的に彼女は自分の物語を語り、罪を告白することを選択する。このことは、言語が自己認識と自己表現の手段としても機能することを示している。モールの告白は、彼女が自分の過去と向き合い、自分自身を理解しようとする試みであると言えるだろう。

Amazonで購入する

Leave a comment

0.0/5