## デフォーの「モール・フランダース」の美
モール・フランダースの人物造形における美
モールの物語は、貧困の中で生まれ育ち、裕福であろうとするために手段を選ばない女性の物語です。彼女は生き残るために、娼婦、泥棒、そして最後には「紳士の妻」という社会的地位を手に入れるためにあらゆる手段を使います。
デフォーはモールの境遇や行動を非難したり、美化したりすることは避け、読者にモールの行動を彼女の視点から理解させます。モールの正直で率直な語り口は、彼女のしたことが必ずしも道徳的に正しいわけではないことを自覚しつつも、その行動に至った経緯や心情を赤裸々に描き出し、読者に複雑な感情を抱かせます。このモールの複雑な人間性こそが、この作品の美の一つと言えるでしょう。
写実的な描写の美
デフォーは、18世紀のイギリス社会、特にロンドンの貧困層や犯罪の世界を克明に描写しています。モールの物語を通して、当時の社会における女性の立場、貧困の現実、そして人間の欲望が赤裸々に描かれています。
デフォーは、登場人物たちの会話や行動、そして周囲の環境描写を通して、当時の社会を生き生きと描き出しています。読者はまるでモールの時代のロンドンを歩いているかのような臨場感を感じ取ることができるでしょう。この写実的な描写は、当時の社会状況や人々の生活を知る上での貴重な資料としての価値も持ち合わせています。
当時の社会への批評性
モールの物語は、当時の社会における矛盾や不平等さを浮き彫りにしています。特に、女性の社会進出が制限され、経済的な自立が困難であった時代背景の中で、モールの生き様は、社会の底辺に生きる人々の現実を突きつけます。
デフォーは、モールの物語を通して、当時の社会制度や道徳観に疑問を投げかけています。読者は、モールの物語を通して、当時の社会問題や人間の弱さ、そして道徳と現実のはざまで揺れ動く人間の姿を目の当たりにすることになります。この社会への批評性は、単なる娯楽小説を超えた、文学作品としての価値を「モール・フランダース」に与えていると言えるでしょう。