## デフォーの「モール・フランダース」の思想的背景
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18世紀イギリス社会と経済状況
「モール・フランダース」は18世紀初頭のイギリスを舞台としており、当時の社会と経済状況が色濃く反映されています。この時期のイギリスは産業革命の黎明期にあたり、都市部への人口集中や商業の活発化が進展していました。
一方で、貧富の格差が拡大し、貧困層の生活は過酷さを増していました。救貧法は存在したものの、その支援は十分ではなく、多くの人々が貧困から抜け出すために必死にもがいていました。特に女性は就労機会が限られており、経済的に困窮するケースが多く見られました。
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ピューリタニズムの影響
17世紀にイギリスで大きな影響力を持ったピューリタニズムは、勤勉、倹約、禁欲といった価値観を重視しました。この思想は、商業や産業の発展に貢献する一方で、厳しい道徳規範を人々に押し付ける側面も持ち合わせていました。
「モール・フランダース」では、主人公モールが罪を犯しながらも、常に神の赦しを願い、改心しようと葛藤する姿が描かれています。これは、当時の社会に根強く残っていたピューリタニズムの影響を反映していると考えられます。
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社会モラルと女性の立場
18世紀のイギリス社会では、女性の貞操や結婚に対する価値観が現代とは大きく異なっていました。女性は経済的に男性に依存することが当然とされ、結婚は社会的地位や経済的な安定を得るための手段として重視されていました。
「モール・フランダース」の主人公モールは、こうした社会通念にとらわれず、自らの意思で行動する女性として描かれています。彼女は、愛人、泥棒、売春婦など、社会的に許されない行為を繰り返しますが、それは彼女が置かれた厳しい現実を生き抜くための手段でもありました。