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デカルトの方法序説に影響を与えた本

デカルトの方法序説に影響を与えた本

数学の影響:サッケーリの「ユークリッド原論注釈」

デカルトの『方法序説』は、近代哲学の礎石とされ、合理主義の誕生を告げるものでした。その革新的な思想は、デカルト自身の深い思索と、当時の知的潮流の双方から生まれてきました。 中でも、古代ギリシャの数学者ユークリッドの著作『原論』と、16世紀イタリアの数学者サッケーリによるその注釈書『ユークリッド原論注釈』は、デカルトの思考に大きな影響を与え、彼の哲学的方法の形成に重要な役割を果たしました。

デカルトは、青年期にユークリッドの『原論』を読み、その論理的な明晰さと厳密さに感銘を受けたとされています。 『原論』は、少数の公理と定義から出発し、演繹的な推論のみによって幾何学の体系を築き上げていく、古代ギリシャ数学の金字塔です。 デカルトは、この著作から、複雑な問題を単純な要素に分解し、明晰かつ確実な認識を積み重ねていくことの重要性を学び取りました。

しかし、デカルトに決定的な影響を与えたのは、サッケーリの『ユークリッド原論注釈』でした。 サッケーリは、『原論』の注釈者として、ユークリッドの論理をさらに厳密化しようと試み、幾何学における証明の限界や、未解決問題の存在を明らかにしました。 特に、平行線公準に関するサッケーリの考察は、デカルトに大きな刺激を与えたと考えられています。 平行線公準とは、『原論』における他の公理と比べて自明性に欠け、長年数学者たちを悩ませてきた命題でした。 サッケーリは、平行線公準を証明しようと試みる中で、その公準を否定しても矛盾が生じないことを示唆し、非ユークリッド幾何学の可能性を予感させました。

サッケーリの仕事は、デカルトに、数学的知識の限界と、新たな方法論の必要性を痛感させました。 デカルトは、サッケーリが示した幾何学における未解決問題を、従来の幾何学の枠組みを超えて解決する必要があると考えました。 そして、そのために、幾何学だけでなく、あらゆる学問の基礎となるような、より普遍的で確実な方法を確立しようと志しました。 その結果として生まれたのが、『方法序説』に展開される、明晰判明な認識を基礎とするデカルトの哲学的方法論でした。

つまり、『方法序説』は、デカルトがユークリッドとサッケーリの数学から受けた影響を色濃く反映した著作と言えるでしょう。 ユークリッドの演繹的な論理と、サッケーリの批判的な分析は、デカルトの哲学的方法の根幹を成す、明晰判明な認識と演繹的推論の重視、そして、あらゆる先入観や権威を疑う批判的精神を生み出す上で、重要な役割を果たしました。

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