## ディルタイの精神科学序説の思索
### 精神科学の基礎づけを目指して
ディルタイの『精神科学序説』は、当時の学問界を席巻していた自然科学的方法を人文科学、社会科学、歴史学といった精神科学にそのまま適用することへの批判から始まります。彼は、自然科学が対象とする自然現象と、人間が創り出した文化や歴史、社会といった精神現象は本質的に異なるものであり、それぞれに適した方法で研究されるべきだと主張しました。
### Erlebnis（経験）と理解
ディルタイは、自然を対象とする自然科学では「説明」が主要な方法となる一方で、精神科学では「理解」こそが不可欠であると説きます。彼によれば、我々は自然に対しては外部からの観察者としての立場をとらざるを得ないのに対し、人間が創り出した文化や歴史、そして他者の行動や作品といった精神現象に対しては、自身の内部に生じる「体験（Erlebnis）」を通して理解することが可能となります。
### 表現と解釈：解釈学的方法
ディルタイは、精神科学における理解を深めるためには、人間の内的体験が客観化された「表現」を分析することが重要だと考えました。文化や歴史といった精神現象は、言語や芸術作品、社会制度など、様々な形で表現されています。 そして、これらの表現を解釈することによって、背後に存在する人間の内的体験、思想、感情などを理解することが可能になるのです。
### 歴史性と相対主義の克服
ディルタイは、精神現象を理解するためには歴史的文脈を考慮することが不可欠であると主張しました。文化や歴史は、特定の時間と場所の中で形成されたものであり、その時代背景や社会状況を理解することなしに、真の理解に到達することはできません。
ディルタイは、歴史的文脈の重要性を強調することで、精神科学における相対主義の克服を目指しました。彼は、あらゆる理解が歴史的に規定されたものであることを認めながらも、異なる時代や文化に生きる人間同士が相互に理解し合うことは不可能ではないと主張しました。