## ディルタイの精神科学序説に関連する歴史上の事件
### 1.
ドイツ統一と国民国家の台頭
ディルタイが活躍した19世紀後半のドイツは、1871年のドイツ統一を経て、近代国民国家として急速に発展を遂げていました。この劇的な社会変動は、人々の価値観や世界観に大きな影響を与え、伝統的な宗教や形而上学に代わる新たな精神的な拠り所が求められるようになりました。ディルタイは、このような時代的背景の中で、自然科学とは異なる独自の認識方法に基づく「精神科学」の確立を目指しました。「精神科学序説」(1883年)はその試みの第一歩と言える著作であり、歴史的社会における人間の経験や文化を理解するための新しい方法論を提示しました。
### 2.
科学主義の隆盛と「世界観の危機」
19世紀は自然科学がめざましい発展を遂げた時代であり、ニュートン力学やダーウィン進化論といった画期的な理論が相次いで登場しました。こうした科学の進歩は、客観的で普遍的な知識の価値を強く印象づけることとなり、社会や文化の領域においても、自然科学の方法論を適用しようとする「科学主義」的な風潮が広まりました。
ディルタイは、このような科学主義の隆盛によって、人間の精神生活が軽視されつつあることに危機感を抱いていました。彼は、「精神科学序説」において、自然科学が対象とする自然現象と、人間の精神がつくり出す歴史・文化現象は根本的に異なると主張し、後者を理解するためには、自然科学的方法とは異なる独自の認識方法が必要であると論じました。
### 3.
歴史主義の隆盛
ディルタイの思想は、19世紀に大きな影響力を持った歴史主義の潮流とも深く関わっています。歴史主義とは、あらゆる文化や社会は、それぞれ固有の歴史的な発展の過程を経て形成されたものであり、普遍的な法則によって理解することはできないとする思想です。
ディルタイもまた、人間の精神は歴史の中で形成されるものであり、特定の時代や社会に固有の「生の様式」を形作ると考えました。彼は、「精神科学序説」において、歴史的なテキストや文化遺産を解釈することで、過去の時代に生きた人々の「生の様式」を理解し、人間の精神の多様性を明らかにしようとしました。