## ディケンズのドンビー父子と時間
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時間と記憶
ディケンズの小説において時間は直線的なものではなく、過去、現在、未来が複雑に絡み合っています。『ドンビー父子』でも、過去の出来事が現在の登場人物たちの行動や関係に大きな影響を与え続けています。
特に、主人公フローレンスにとって、亡くなった母親との思い出は重要な意味を持ちます。彼女は母親の形見を大切に身につけることで、母親の存在を近くに感じ、心の支えとしています。また、フローレンスの兄ウォルターも、幼少期の父親との確執や、フローレンスとの強い絆を胸に抱えながら成長していきます。
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時間の流れの差異
『ドンビー父子』では、時間の長さに対する感じ方が登場人物によって異なることが示唆されています。例えば、フローレンスにとって、父親から冷遇され、孤独に過ごす時間は、永遠にも感じるほど長く苦しいものです。
一方、ドンビー氏のような社会的地位や経済力を持つ人物は、時間経過の影響をあまり受けずに人生を送っているように描かれています。彼は、自分の過去の行動を反省することなく、権威と体裁を重視した生き方を続けます。
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時間の経過と変化
時間と共に変化していくものと、変化しないものが対比的に描かれているのも特徴です。ドンビー氏の硬直化した価値観や、フローレンスへの冷淡な態度は、物語が進むにつれて変化することはありません。
一方で、周囲の人々は時間と共に成長し、変化していきます。ウォルターは苦難を乗り越え、立派な若者へと成長しますし、フローレンスを取り巻く環境も、様々な出会いと別れによって変化していきます。