ツルゲーネフの父と子が扱う社会問題
世代間対立
本作の最大の特徴とも言えるのが、父と子の世代間対立です。主人公である医学生のバザロフは、貴族社会の伝統や権威を否定するニヒリスト(虚無主義者)として描かれ、父であるニコライやその世代と激しく対立します。バザロフは、科学や合理主義を重視し、愛や芸術、自然といった感傷的なものを否定しますが、彼の思想は、当時のロシア社会における急激な変化や社会不安を背景に生まれた若者世代のニヒリズムを象徴しています。
社会変革と旧体制
19世紀半ばのロシアは、農奴制の廃止や資本主義の台頭など、大きな社会変革期にありました。バザロフのような若者世代は、古い社会体制や価値観を否定し、新たな社会の建設を目指していました。一方、ニコライのような older generation は、伝統的な価値観や生活様式を守ろうとし、若者世代の急進的な考え方に反発を抱きます。
貴族社会の没落と農奴解放問題
バザロフは、没落しつつある貴族階級出身であるにも関わらず、貴族社会の特権や価値観を否定し、むしろ農民に共感的な態度を示します。当時のロシアでは、農奴解放問題が深刻化しており、バザロフの思想は、農奴制を擁護する保守的な貴族階級に対する痛烈な批判として受け止められました。
愛と結婚観の変化
バザロフは、愛や結婚といった制度も、社会によって押し付けられた不自然なものと捉えています。彼は、アンナ・セルゲーエヴナへの恋愛感情を抱くものの、それを認めようとせず、結婚という制度に縛られることを拒否します。これは、当時の社会における伝統的な結婚観、すなわち家柄や財産に基づいた結婚に対するアンチテーゼとして描かれていると解釈できます。
自然科学と人間
バザロフは、自然科学を絶対視し、人間の感情や精神的な側面を軽視する傾向があります。彼は、自然を「工場」と呼び、人間もまた自然の一部として機械論的に捉えます。しかし、皮肉にも、バザロフ自身もアンナへの叶わぬ恋によって苦悩し、最後は感染症によって命を落とします。これは、自然科学の限界と、人間の感情や精神の複雑さを浮き彫りにしています。