## ツルゲーネフの「父と子」とアートとの関係
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ニコライ・ペトロヴィッチとアート:感傷的なロマン主義
ニコライ・ペトロヴィッチは、プーシキンを愛誦し、ピアノを演奏することで心の平安を保とうとする、感傷的なロマン主義者として描かれています。彼の芸術への傾倒は、過去の思い出や理想化された美への執着と結びついています。
例えば、彼は亡き妻を偲んで彼女の好きだった曲を弾き、過去の美しい思い出に浸ります。また、自然の風景を美しいと感じる感性はロマン主義的なものであり、現実の厳しさから目を背け、理想の世界に逃避しようとする様子がうかがえます。
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パヴェル・ペトロヴィッチとアート:形式主義と貴族趣味
一方、兄のパヴェル・ペトロヴィッチは、芸術を貴族としての教養やステータスシンボルと捉え、形式や伝統を重視します。彼はドイツ語で哲学書を読み、西洋の上流階級の文化に傾倒しています。
彼の芸術に対する態度は、バザロフとの対立を生む要因の一つとなります。バザロフは、パヴェル・ペトロヴィッチの芸術観を「貴族の遊び」と断じ、実用性を重視するニヒリズムの立場から批判します。
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バザロフとアート:ニヒリズムと芸術の否定
バザロフは、自然科学を重視し、芸術を含む伝統的な価値観を否定するニヒリストです。彼は芸術を「役に立たないもの」とみなし、感情や美意識よりも理性や実用性を重視します。
彼のこの態度は、ニコライ・ペトロヴィッチとの会話の中で顕著に見られます。バザロフは、プーシキンの詩を「感傷的で時代遅れ」と切り捨て、ニコライ・ペトロヴィッチを困惑させます。
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アンナ・セルゲーヴナ・オジンツォーワとアート:教養と退屈
裕福な未亡人であるアンナ・セルゲーヴナ・オジンツォーワは、芸術に対して一定の教養を持っていますが、どこか冷めた目で見ているところがあります。彼女は芸術を心の慰めや退屈しのぎとして捉えており、真に情熱を傾けているわけではありません。
バザロフは、彼女の美貌と知性に惹かれながらも、芸術に対する冷めた態度に失望を感じます。バザロフにとって、芸術は否定すべきものでしたが、それでもなお、心の奥底では感動や情熱を求めていたのかもしれません。