チョーサーのカンタベリー物語に影響を与えた本
ボッカッチョのデカメロン
ジョヴァンニ・ボッカッチョの『デカメロン』は、チョーサーの『カンタベリー物語』に大きな影響を与えた作品であり、その影響は作品の構成とストーリーテリングの両方に明らかです。1348年から1353年の間に書かれた『デカメロン』は、ペストの流行から逃れるためにフィレンツェ郊外の田舎の別荘に避難した10人の若い男女の物語を枠物語としています。退屈を紛らわすために、彼らは10日間にわたって、毎日一人一話ずつ、合計100の物語を語ることにします。
『カンタベリー物語』と『デカメロン』の最も明白な類似点は、枠物語という構造です。どちらの作品も、さまざまな背景や身分の登場人物を集め、その旅の途中で物語を語らせます。『カンタベリー物語』では、巡礼者たちはサザークの居酒屋からカンタベリー大聖堂まで旅をし、道中でお互いに物語を語り合います。この枠物語という設定は、多様な声や視点を盛り込み、社会の断面図を描くことを可能にする効果的な手法です。
『カンタベリー物語』のいくつかの物語は、『デカメロン』の物語から直接的に着想を得ていると考えられています。例えば、『カンタベリー物語』の「騎士の物語」は、『デカメロン』の第10日第5話のテーセウスとエミリアの物語と多くの共通点があります。同様に、『カンタベリー物語』の「法務官の物語」は、『デカメロン』の第9日第2話のお人好しの騎士の物語と類似しています。これらの物語間の類似点は、チョーサーがボッカッチョの作品をよく知っていて、そこからインスピレーションを得ていたことを示唆しています。
枠物語の構造と具体的な物語の類似点以外にも、『カンタベリー物語』と『デカメロン』は、人間性の探求や社会の風刺というテーマにおいても共通点が見られます。どちらの作品も、登場人物の欠点や愚かさをユーモアと皮肉を交えて描き、当時の社会の価値観や慣習に疑問を投げかけています。この点において、『デカメロン』はチョーサーが人間の行動の複雑さを鋭く観察し、社会に対する辛辣でありながらもユーモアのある批評を展開するための重要な先例となったと言えます。
結論として、ジョヴァンニ・ボッカッチョの『デカメロン』は、ジェフリー・チョーサーの『カンタベリー物語』の形成に大きな影響を与えた作品です。枠物語という構造、具体的な物語の類似点、人間性や社会に対する共通の関心などから、『デカメロン』が『カンタベリー物語』に与えた影響は明らかです。チョーサーはボッカッチョの作品からインスピレーションを得ながら、独自の声と視点を作品に織り込み、英語文学の傑作の一つを創造しました。