## チューリングの計算機械と知能の技法
チューリングの「計算機械と知能」(Computing Machinery and Intelligence) は、人工知能の分野における重要な論文です。この論文でチューリングは、機械が思考できるかという問題に対して、 **模倣ゲーム** と呼ばれる思考実験を提案することで挑みました。
### 模倣ゲーム
チューリングは、機械が「思考する」と言えるかどうかを直接判定するのではなく、「人間と区別できないほど自然な会話ができるか」という基準で判断することを提案しました。これが模倣ゲームの基本的な考え方です。
模倣ゲームは、人間である判定者が、見えない相手(機械と人間)とテキストベースの会話を行い、どちらが人間かを判別するゲームです。機械は人間らしい会話を生成することで判定者を欺こうとします。
もし判定者が機械と人間を区別できない、あるいは機械を人間だと誤認するケースが十分に多ければ、その機械は「思考する」と言えるだけの知能を持っているとチューリングは主張しました。
### 離散状態機械 (デジタルコンピュータ)
チューリングは、模倣ゲームを行う主体として、 **離散状態機械** を想定しました。これは、現代のデジタルコンピュータと等価なものです。
離散状態機械は、以下の要素で構成されます。
* **内部状態**: 機械は、有限個の内部状態のいずれかをとります。
* **記号**: 機械は、有限種類の記号を読み書きできます。
* **状態遷移**: 機械は、現在の状態と入力記号に応じて、内部状態を変化させ、記号を出力します。
チューリングは、適切に設計された離散状態機械は、どんな計算可能なプロセスも実行できると主張しました。これは、 **チャーチ=チューリングのテーゼ** と呼ばれる重要な仮説です。
### 反論への応答
チューリングは、機械が思考できるという考えに対する様々な反論を想定し、それらに反駁を試みています。
例えば、「機械は感情を持たない」という反論に対しては、感情を持っているように見える機械を作ることができれば、その機械が実際に感情を持っているかどうかは問題ではないと反論しています。
このように、チューリングは「計算機械と知能」の中で、機械が思考できるかどうかという問題に対して、深遠で多角的な考察を展開しました。彼の提案した模倣ゲームや、デジタルコンピュータによる思考の可能性についての議論は、その後の人工知能研究に大きな影響を与え続けています。