ダンテの天国篇に影響を与えた本
アリストテレス著「ニコマコス倫理学」
アリストテレスの「ニコマコス倫理学」は、ダンテの「神曲」、特に「天国篇」に大きな影響を与えた重要な作品です。この倫理学書は、人間の幸福と徳、そして理性と知性を通して神に近づく可能性について深く考察したものです。
ダンテは、「神曲」の中でアリストテレスの哲学を自身のキリスト教的世界観に組み込み、人間の魂の救済と神への上昇を描き出しました。「天国篇」において、ダンテは天球を昇るごとに高次の知性と愛に満たされ、最終的に神を直接観照するに至ります。このプロセスは、「ニコマコス倫理学」で説かれる理性と徳の段階的な向上と、その最終的な目的である至福(エウダイモニア)の獲得に酷似しています。
特に、「天国篇」の構成や天球の配置には、アリストテレス的な宇宙観の影響が色濃く反映されています。例えば、九つの天球と原動天という構造は、アリストテレスが提唱した宇宙モデルと共通点が見られます。また、各天球を司る天使や聖人たちの配置にも、アリストテレスの倫理思想に基づく徳の階層が反映されていると解釈することができます。
さらに、「ニコマコス倫理学」で重視される知性、特に神を認識するための手段としての知性の役割は、「天国篇」において重要なテーマとなっています。ダンテは、天球を昇るにつれて、神に関するより高度な知識と理解を獲得していきます。そして、最終的には、人間の理性を超越した神の神秘に触れることで、言葉では言い表せない至高の幸福を体験します。
このように、「ニコマコス倫理学」は、「天国篇」における宇宙観、倫理観、そして救済の概念に多大な影響を与えています。ダンテは、アリストテレスの哲学を自身のキリスト教的世界観と融合させることで、人間の魂の救済と神への愛という普遍的なテーマを、壮大なスケールで描き出すことに成功しました。