ダイシーの法と世論の発想
ダイシーの生涯と著作
アルバート・ヴェン・ダイシー(Albert Venn Dicey、1835-1922)は、イギリスの法学者であり、憲法学者としても著名です。彼は、オックスフォード大学で学び、教鞭をとった後、1882年から1909年まで同大学の法学教授を務めました。ダイシーは、イギリス憲法に関する著作「The Law of the Constitution」(1885年)で広く知られており、この書はイギリス憲法の古典的なテキストとして、今日でも高く評価されています。
「法の支配」概念
ダイシーは、「The Law of the Constitution」の中で、イギリス憲法の三つの主要な原則として、「法の支配」、「議会主権」、「司法判例」を挙げました。中でも「法の支配」の概念は、ダイシーの思想の根幹をなすものであり、後世に大きな影響を与えました。
ダイシーは、「法の支配」を以下のように説明しています。
1. **恣意的な権力の排除**: 誰もが、法に基づいてのみ、処罰されたり、自由を奪われたりすべきである。
2. **法の下の平等**: 全ての人々は、身分や地位に関わらず、同じ法律の適用を受ける。
3. **基本的人権の保障**: 個人の権利と自由は、議会制定法によってではなく、共通法の伝統と判例によって保障されている。
世論と法の関係
ダイシーは、法と世論の関係について強い関心を抱いていました。彼は、「The Law and the Public Opinion in Nineteenth Century England」(1905年)の中で、19世紀のイギリスにおける立法と世論の関係を分析しました。ダイシーは、世論が法律に影響を与えることは事実だが、その影響力は間接的かつ長期的なものであると論じました。
ダイシーは、世論が法に影響を与えるプロセスを以下のように説明しました。
1. **世論の形成**: 世論は、教育、宗教、経済状況、社会問題など、様々な要因によって形成される。
2. **政治家への影響**: 世論は、選挙や政治運動を通じて、政治家に影響を与える。
3. **立法化**: 政治家は、世論を反映した法律を制定する。
ダイシーは、世論が法に影響を与えるためには、一定の時間と熟成が必要であると考えました。彼は、世論が感情的になったり、短絡的な意見に左右されたりすると、適切な法律が作られないと警告しました。