## ダイシーの法と世論の対極
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「群集心理」
– Gustave Le Bon (1895)
ギュスターヴ・ル・ボンの「群集心理」は、群集の行動様式とその心理を分析した著作であり、ダイシーの「法と世論」とは対照的な視点を提示しています。
ダイシーが理性的な世論形成と法との関係を重視したのに対し、ル・ボンは群集の非合理性、衝動性、無意識的な力に焦点を当てています。彼は、個人が群集に加わることで、匿名性、責任の拡散、感情の相互感染といった要因によって、理性的な思考能力を失い、原始的で衝動的な行動をとるようになると主張しました。
「群集心理」では、群集は容易に指導者やイデオロギーに操られ、暗示や伝染によって集団的なヒステリー状態に陥るとされています。ル・ボンは、群集の持つこの危険性を強調し、群集の心理を理解することの重要性を説いています。
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「法の精神」
– Montesquieu (1748)
モンテスキューの「法の精神」は、法の起源、原則、様々な形態を比較分析し、法と社会、政治、歴史、風土との関係を考察した壮大な著作です。
ダイシーがイギリスの具体的な歴史と政治体制を基に法と世論の関係を論じたのに対し、モンテスキューはより普遍的な視点から、法の多様性とその背後にある要因を分析しています。彼は、法は特定の社会の風土、歴史、宗教、経済状況などによって規定されると考え、「共和政」「君主政」「専制政」という三つの政体それぞれに適した法の精神があるとしました。
「法の精神」は、世論を単なる意見の集積ではなく、社会全体の精神を反映するものとして捉えています。モンテスキューは、法が社会に受け入れられ、有効に機能するためには、その社会の精神、すなわち「一般精神」と調和していなければならないと主張しました。
これらの著作は、「ダイシーの法と世論」とは異なる視点から法と社会の関係を考察しており、多角的な理解を深める上で重要な示唆を与えています。