ダイシーの法と世論のテクスト
ダイシーの法と世論
A.V. Diceyの”Law and Public Opinion in England during the Nineteenth Century” (1905)は、19世紀のイギリスにおける法と世論の関係を探求した重要な著作です。 Diceyは、法律がどのように形成され、変化していくのかを、世論との相互作用という観点から分析しました。
主要な論点
Diceyは、19世紀のイギリスにおける立法活動は、大きく三つの時代に分けられると主張しました。
* **第一期 (1800-1830):** この時代は、フランス革命の影響を受け、個人の自由と権利を重視する「個人主義」あるいは「laissez-faire」の思想が支配的でした。 この時代の立法は、国家による経済活動への介入を最小限に抑え、自由競争を促進することを目指しました。
* **第二期 (1830-1870):** この時代は、産業革命の影響で生じた社会問題への対応として、国家による社会福祉の向上や労働条件の改善を求める「コレクティビズム」の思想が台頭しました。 この時代の立法は、工場法や貧困法の改正に見られるように、国家による社会への介入を強化する方向に進みました。
* **第三期 (1870-1900):** この時代は、「コレクティビズム」の思想がさらに強まり、国家の役割が拡大しました。 教育や公衆衛生など、従来は民間が担っていた分野にも国家が進出するようになり、社会全体の福祉向上を目指す傾向が強まりました。
世論の影響
Diceyは、それぞれの時代の立法活動は、当時の世論を反映したものであると主張しました。 法律は、世論から独立して存在するのではなく、むしろ世論の変化によって形作られていくものだと考えたのです。 彼は、世論形成における知識人やジャーナリズムの役割を重視し、彼らが新しい思想や価値観を広めることで、法律の制定や改正を促すと考えました。
批判
Diceyの著作は、法と社会の関係を明らかにした重要な研究として評価されていますが、一方で、いくつかの批判もあります。 例えば、彼の時代区分や世論の影響に関する議論は、過度に単純化されているという指摘があります。 また、彼はイギリス社会における階級や権力の不平等といった問題を十分に考慮しておらず、その結果、彼の分析は一部のエリート層の視点に偏っているという批判もあります。
結論
“Law and Public Opinion in England during the Nineteenth Century” は、法と世論の複雑な関係を理解する上で重要な視点を提供しています。 彼の著作は、今日の社会においても、法律がどのように変化し、社会に影響を与えているのかを考える上で、多くの示唆を与えてくれます。