## ターナーのフロンティアの批評
ターナー論文の影響力
1893年に発表されたフレデリック・ジャクソン・ターナーの論文「フロンティアにおけるアメリカの民主主義」は、アメリカの歴史学において最も影響力のある論文の一つとして広く認められています。ターナーは、アメリカ社会の形成におけるフロンティア、つまり西部の未開拓地の重要性を強調しました。彼は、フロンティアがアメリカ人に独自の特性、すなわち個人主義、民主主義、平等主義、そして自己決定の精神を与えたと主張しました。
フロンティア概念への批判
ターナーの論文は発表以来、多くの賞賛を受けてきましたが、その中心的な主張や方法論に対する批判も数多く寄せられています。
環境決定論に対する批判
第一に、ターナーの論文は環境決定論に傾倒しすぎていると批判されてきました。環境決定論とは、人間の文化や社会は、地理や環境などの要因によって決定されるとする考え方です。ターナーはフロンティアを、アメリカの国民性を形作った主要な要因として提示していますが、これは他の要因、例えばヨーロッパからの移民の多様性や、先住民文化との相互作用などを軽視しているという批判があります。
フロンティアの定義に対する批判
第二に、ターナーの「フロンティア」の定義は曖昧で、一貫性に欠けるとの批判があります。彼はフロンティアを、文明と未開の地の境界線として捉えていますが、この境界線は常に移動しており、明確な定義を与えることは困難です。また、ターナーはフロンティアを均質な空間として描いているという批判もあります。実際には、フロンティアは多様な環境、文化、社会構造を持つ地域であり、一括りに論じることはできません。
先住民の無視
第三に、そして最も重要な批判の一つとして、ターナーはフロンティアにおける先住民の存在と影響を軽視しているという点が挙げられます。ターナーはフロンティアを「空虚な」土地とみなし、そこに入植したヨーロッパ系アメリカ人の経験に焦点を当てています。しかし実際には、フロンティアは先住民が何千年にもわたって生活してきた土地であり、彼らの文化や社会はヨーロッパ系アメリカ人の進出によって大きな影響を受けました。
ジェンダーと人種に対する視点
さらに、ターナーの論文はジェンダーと人種に対する視点が欠如しているという批判もあります。彼はフロンティアを男性中心的な世界として描き、女性の役割や貢献を軽視しています。また、彼はフロンティアにおける人種差別や、アフリカ系アメリカ人や他の少数民族の経験についても十分に論じていません。
新しいフロンティア史観
これらの批判を受けて、1970年代以降、新しいフロンティア史観が登場しました。新しいフロンティア史観は、ターナーの論文を完全に否定するものではありませんが、その限界を克服しようと試みています。例えば、先住民の歴史や文化、女性の役割、人種や階級の問題など、ターナーが軽視した側面に焦点を当てています。
これらの批判にもかかわらず、ターナーのフロンティア論文は、アメリカの歴史学における重要な転換点となりました。彼の論文は、フロンティアがアメリカの国民性と発展に大きな影響を与えたという認識を広め、その後のフロンティア史研究の出発点となりました。