ゾラのナナに影響を与えた本
バルザックの「風俗習俗考」
エミール・ゾラの傑作「ナナ」は、第二帝政期のフランス社会、特に退廃と売春の世界を鮮やかに、そして時に容赦なく描いた作品です。この作品の背景には、ゾラの文学的影響だけでなく、彼の人生観を形作った当時の社会経済状況も反映されています。数ある影響の中でも、オノレ・ド・バルザックの「風俗習俗考」、特にその中の「十三人の物語」は、ゾラの「ナナ」に大きな影響を与えた作品の一つとして挙げられます。
バルザックの「風俗習俗考」は、19世紀前半のフランス社会を網羅的に描いた壮大な作品群です。その中で「十三人の物語」は、復讐を誓った謎の美女、フェリックス・ド・ヴァンデネス伯爵夫人の物語を描いています。彼女は自身の美貌と知性を駆使し、自分を不幸に陥れた男たちに復讐を果たしていくのです。
「ナナ」と「十三人の物語」の共通点は、女性を主人公として、当時の社会における女性の立場、特に上流階級における男性支配の構造や、その中で生きる女性の苦悩を描いている点にあります。フェリックス夫人は、自身の美貌と知性を武器に、男性優位の社会でしたたかに生き抜き、復讐を果たします。一方、ナナは、貧困から抜け出すために自身の肉体を売ることを選択し、 courtesan として成り上がっていきます。
ゾラはバルザックの写実的な描写手法から影響を受け、登場人物たちの心理や社会の矛盾をリアルに描き出しています。両作品とも、当時の社会構造や人間の欲望を赤裸々に描き出し、読者に一石を投じている点が共通しています。