ソルジェニーツィンの癌病棟の原点
癌病棟での体験
1954年から1955年にかけて、アレクサンドル・ソルジェニーツィンは癌を患い、タシケントにあるウズベキスタンの癌専門病院に入院していました。このときの体験は、後に彼の代表作の一つとなる「癌病棟」の創作において、直接的な着想源となりました。
収容所での経験
ソルジェニーツィンは、第二次世界大戦中にドイツ軍への協力をほのめかしたとして逮捕され、1945年から1953年まで強制収容所で過ごしました。この過酷な経験は、彼の文学作品全体に大きな影響を与えており、「癌病棟」も例外ではありません。収容所と病院という、どちらも自由を奪われた閉鎖的な空間の類似性、極限状態における人間の心理や行動、権力構造などが、作品に色濃く反映されています。
スターリン批判との関連
「癌病棟」は、1960年代初頭に執筆されました。これは、ニキータ・フルシチョフによるスターリン批判が展開された時期と重なります。ソルジェニーツィンは、スターリン体制下の全体主義社会を癌に例え、その病巣が社会の深部にまで浸透している様を、病院というマイクロコスモスを通して描こうとしました。