## ソルジェニーツィンの癌病棟と時間
時間：癌による変容
「癌病棟」では、時間が登場人物たちにとって非常に重要な要素として描かれています。特に、癌という病は彼らの時間認識を大きく変容させるものとして存在しています。
まず、癌患者たちは常に死と隣り合わせに生きており、残された時間が限られていることを強く意識させられます。このため、彼らは「健康な」人間とは異なる時間感覚を持つようになり、一日一日をより大切に、濃密に生きようとする様子が描かれています。
例えば、主人公のコストグロトフは、入院当初は自分の病気や将来について悲観的になっていましたが、次第に病院内での小さな喜びや人間関係に目を向けるようになります。彼は他の患者たちと語り合い、共に時間を過ごす中で、限られた時間の中にも生きる意味を見出そうとします。
時間：体制による支配と個人の自由
「癌病棟」における時間のテーマは、個人の人生における時間という枠組みを超えて、当時のソ連社会における全体主義体制による時間の支配という側面も持ち合わせています。
作中では、病院の規則や医師たちの言動、そして社会全体を覆う閉塞感などを通して、個人の自由が制限されている様子が描かれています。患者たちは、まるで機械の歯車のように決められたスケジュールに従って生活し、自らの意思で時間を使うことができません。
このような状況は、当時のソ連社会における全体主義体制のメタファーとして解釈することができます。個人は国家という巨大なシステムの一部として扱われ、自由な時間や生活を奪われているのです。
一方、コストグロトフは、他の患者たちとの交流や読書などを通して、体制に縛られない自由な時間を過ごそうとします。彼は、限られた時間の中でも、自分の意志で考え、行動することの大切さを訴えかけているかのようです。