セガンのコスモスに影響を与えた本
ジョセフ・キャンベル著「千の顔を持つ英雄」
カール・セーガンの「コスモス」は、宇宙の広大さと、そこに住む私たち人間の立場を探求した画期的な作品です。 科学的な解説と哲学的な思索、そして歴史や神話をも織り交ぜたその語り口は、多くの読者を魅了しました。
セーガンは、「コスモス」の中で、人類の宇宙に対する飽くなき探求心を「宇宙(コスモス)の海に乗り出す船」という比喩を用いて表現しています。 そして、この壮大な旅路へと彼を駆り立てたインスピレーションの一つが、ジョセフ・キャンベルの著書「千の顔を持つ英雄」だったと言えるでしょう。
キャンベルは、「千の顔を持つ英雄」の中で、世界中の神話や伝説、物語を分析し、その根底に共通する「英雄の旅」の構造を明らかにしました。 彼は、英雄が様々な試練を乗り越え、成長していく過程は、人間の精神的な成長の過程を象徴していると考えました。
セーガンは、キャンベルのこの考え方に深く共鳴し、「コスモス」の中で、科学者たちの業績を、まさに「英雄の旅」として描いています。 例えば、地動説を唱えたガリレオ・ガリレイや、万有引力の法則を発見したアイザック・ニュートンは、当時の常識や権威に立ち向かいながらも、真実を追求した「英雄」として描かれています。
また、セーガンは、キャンベルが「英雄の旅」の最終段階として位置付けた「宝の持ち帰り」についても、独自の解釈を加えています。 キャンベルは、「宝」を「自己実現」や「悟り」といった内的世界のものと捉えていましたが、セーガンは、それを「宇宙の真理」や「生命の神秘」といった、より普遍的なものへと拡張しました。
「コスモス」の中で、セーガンは、私たち人類が、宇宙の広大さと神秘を探求することで、自らの存在意義を見出せると説いています。 それはまさに、「英雄の旅」の果てに、人類全体のための「宝」を持ち帰ることと言えるでしょう。
このように、「千の顔を持つ英雄」は、セーガンに「コスモス」の根底を流れるテーマである「人間の宇宙における位置づけ」や「探求の意義」を考察する上で大きな影響を与えました。 セーガンの科学と神話を融合させた壮大な世界観は、キャンベルの思想なくしては生まれなかったと言えるかもしれません。