## スミスの国富論の美
美しさ1. 体系的な構造と論理展開の明晰さ
アダム・スミスの『国富論』は、一見複雑な経済現象を、驚くほど明快かつ体系的な構造と論理展開によって解き明かしていく点に美しさがあります。
まず、本書は「労働の生産力とその生産物を国民の各階級間に分配する秩序」という、人間の経済活動の本質を突いたテーマ設定がなされています。そして、このテーマに基づき、全5編、2巻という膨大な量の議論が、驚くほど自然な流れで展開されていきます。
第1編では、富の源泉である分業について詳細に論じ、分業の進展が生産力の向上に繋がるメカニズムを解明します。続く第2編では、分業によって生み出された生産物の交換を円滑に行うための媒介物としての貨幣の役割を論じ、貨幣の起源と本質に迫ります。
第3編では、ヨーロッパ諸国の経済発展の歴史を振り返りつつ、富の増大を阻害する要因について考察します。そして、第4編では、重商主義をはじめとする様々な経済思想を批判的に検討し、自由貿易の優位性を論証します。
最後の第5編では、国家の収入源である租税のあり方や、君主または国家が当然負担すべき事業について論じ、経済活動における政府の役割を明確に規定しています。
このように、『国富論』は、一貫したテーマの下、各編が有機的に結びつきながら、壮大な経済学の体系を構築している点に大きな美しさを見出すことができます。
美しさ2. 鋭い観察眼と洞察力に裏打ちされた具体的な事例の数々
『国富論』のもう一つの美しさは、抽象的な理論だけでなく、スミス自身の鋭い観察眼と洞察力に裏打ちされた具体的な事例が豊富に盛り込まれている点にあります。
例えば、分業の効果を説明する際に、スミスはピン工場における労働工程の分業を例示し、分業によってピンの生産量が飛躍的に増加することを具体的な数字を用いて説明しています。
また、自由競争の重要性を説く際には、ギルド制度や徒弟制度といった、当時の経済活動を規制していた制度の弊害を具体的に指摘し、自由な経済活動の重要性を訴えています。
さらに、重商主義に対する批判においては、植民地政策や貿易制限政策がもたらす経済的な損失を、歴史的事実を交えながら具体的に示しています。
このように、スミスは、抽象的な理論を展開するだけでなく、読者がその理論をより深く理解できるように、身近な事例や歴史的事実を効果的に用いています。この点も、『国富論』が時代を超えて読み継がれる理由の一つと言えるでしょう。