スピノザの神学・政治論の思想的背景
スピノザの生きた時代
バールーフ・デ・スピノザ（1632-1677）は、オランダ黄金時代の激動の時代に生きました。この時代は、宗教改革後の宗教的・政治的混乱、三十年戦争（1618-1648）、オランダ共和国における政治的緊張と内紛によって特徴付けられます。スピノザ自身は、ユダヤ人コミュニティから破門され、宗教的寛容を唱えながらも政治的および宗教的迫害の対象となりました。
宗教改革とユダヤ教
宗教改革は、キリスト教世界に大きな変化をもたらし、プロテスタントとカトリックの対立を生み出しました。この対立は、三十年戦争のような宗教戦争に発展し、ヨーロッパ中に混乱と分裂をもたらしました。スピノザは、宗教的権威と解釈をめぐるこれらの争いを目の当たりにし、それが社会に与える破壊的な影響を目の当たりにしました。
スピノザは、アムステルダムのユダヤ人コミュニティで生まれ育ちました。彼は伝統的なユダヤ教の教育を受けましたが、やがて聖書の合理主義的解釈や哲学的探求に興味を持つようになりました。彼の急進的な思想は、ユダヤ人コミュニティからの破門につながりました。この経験は、スピノザの宗教的権威、自由思想の重要性、寛容に関する考え方に大きな影響を与えました。
デカルト哲学の影響
スピノザは、フランスの哲学者ルネ・デカルト（1596-1650）の思想に深く影響を受けました。デカルトの合理主義、数学的方法、心身二元論は、スピノザの哲学の重要な出発点となりました。特に、「方法序説」（1637）や「哲学原理」（1644）などのデカルトの著作は、スピノザに大きな影響を与えました。
スピノザはデカルトの合理主義的方法を採用し、それを神学と政治の領域に適用しました。彼は、聖書や政治制度を含む、あらゆる知識分野を理性と論理の光で批判的に検討する必要があると主張しました。
ホッブズの政治哲学
スピノザは、イギリスの哲学者トーマス・ホッブズ（1588-1679）の政治哲学にも影響を受けました。ホッブズの著作「リヴァイアサン」（1651）は、自然状態、社会契約、絶対的な主権者という概念を提示しました。
ホッブズは、自然状態ではすべての人間が自分の生存と利益のために闘争しており、社会は恐怖と混乱に陥ると主張しました。ホッブズによれば、人々は社会契約を結び、自分の権利の一部を絶対的な主権者に譲渡することによってのみ、平和と秩序を達成することができます。
スピノザはホッブズの自然状態の概念や社会契約論に同意しませんでした。彼は、人間は社会的な動物であり、自然な社会性と協調性を持っていると信じていました。しかし、ホッブズの政治的安定と秩序の重要性に対する強調は、スピノザ自身の政治哲学に影響を与えました。