## スチュアートの政治経済学の諸原理の価値
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出版当時の状況
* 「経済学および課税の原理について探求」で知られるアダム・スミスによる古典派経済学の確立から約70年後、1848年にジョン・スチュアート・ミルは「経済学の諸原理」を出版しました。これは、アダム・スミス、デヴィッド・リカード、トマス・ロバート・マルサスといった古典派経済学の考え方を体系的にまとめ、発展させたものです。
* 当時のイギリスは産業革命の進展とともに経済成長を遂げていましたが、貧富の格差の拡大や労働問題など、様々な社会問題を抱えていました。ミルは功利主義の立場から、これらの問題解決のために経済学が果たすべき役割は大きいと考えたのです。
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内容と特徴
* ミルの「経済学の諸原理」は、生産、分配、交換、進歩という4つの部門から構成されています。
* 生産の部門では、労働、資本、土地といった生産要素の役割や生産性について論じています。ここでは、規模の経済や収穫逓減の法則など、現代経済学にも通じる概念がすでに提示されています。
* 分配の部門では、賃金、利潤、地代といった分配の決定要因や社会における富の分配について考察しています。ミルは、当時のイギリスにおける貧富の格差の拡大を問題視し、私有財産の制限や相続税の導入など、政府による積極的な介入を主張しました。
* 交換の部門では、価値と価格の理論、国際貿易、貨幣と銀行の役割などについて論じています。ここでは、比較優位説に基づく自由貿易の重要性を強調しています。
* 進歩の部門では、人口増加、技術革新、経済成長の関係について考察し、将来における定常状態の可能性について論じています。ミルは、経済成長が無限に続くとは考えておらず、将来的には人口増加が抑制され、経済成長も鈍化する定常状態に達すると予測しました。
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後世への影響
* 「経済学の諸原理」は、出版後長年にわたり経済学の標準的な教科書として用いられ、19世紀後半から20世紀初頭にかけて大きな影響力を持ちました。特に、社会主義の影響を受けながらも、自由主義と功利主義の立場から市場メカニズムの重要性と限界を論じた点は、その後の経済学だけでなく、政治や社会思想にも大きな影響を与えました。
* ミルの思想は、現代の経済学から見ると時代遅れな部分も少なくありません。しかし、彼の社会正義に対する強い意識や、経済学を単なる学問としてではなく、現実の社会問題を解決するためのツールとして捉えていた姿勢は、現代においても高く評価されています。