スタンダールの赤と黒の比喩表現
赤と黒の象徴
まず、タイトルにもなっている「赤と黒」自体が、主人公ジュリアン・ソレルの内面と当時の社会状況を象徴する大きな比喩として機能しています。一般的に赤は情熱や血、革命などを、黒は聖職者服や死、権力を連想させます。
ジュリアンは、ナポレオンに憧れる強烈な野心と情熱を内に秘めながらも、当時のフランス社会では、平民である自分が成功するためには、偽善的な聖職者としての道を歩まざるを得ないと感じています。彼の揺れ動く心情、そして彼が生きる時代背景における教会と軍隊という二つの権力の対比が、「赤と黒」という対照的な色彩の象徴を通して表現されていると言えるでしょう。
自然の描写
スタンダールは、自然描写を巧みに用いることで、登場人物の心情や状況を暗示的に表現しています。例えば、ジュリアンがレナール夫人に初めて出会う場面では、美しい緑色の衣装をまとった夫人が、緑豊かな庭園を背景に登場します。この緑色は、夫人の美しさや生命力、そしてジュリアンにとっての未経験の愛を象徴しています。
一方、ジュリアンがレナール夫人への愛に苦悩する場面では、嵐や雷鳴といった荒々しい自然現象が描かれます。これは、彼の心の動揺や、禁断の愛がもたらす不安定な状況を反映していると言えます。このように、自然描写は単なる背景描写ではなく、登場人物の心情や運命を暗示する重要な役割を担っています。
その他
その他にも、作品中には様々な比喩表現が登場します。例えば、ジュリアンが上流社会に足を踏み入れることを、「劇場の舞台に上がる」と表現することで、彼の置かれた状況の不安定さや、偽りの自分を演じなければならない苦悩を強調しています。
また、ジュリアンが社会の階段を上っていく様子を、賭博に勝つことにたとえることで、彼の野心と、その裏にある危険性を暗示しています。これらの比喩表現は、読者に登場人物の心情や状況をより深く理解させるとともに、作品全体に深みと奥行きを与えています。