スタンダールのパルムの僧院に影響を与えた本
ジャン＝ジャック・ルソーによる『新エロイーズ』の影響
スタンダールの傑作小説『パルムの僧院』は、さまざまな文学作品や哲学的潮流から影響を受けています。中でも、ジャン＝ジャック・ルソーの書簡体小説『新エロイーズ』の影響は際立っており、物語の筋、登場人物、テーマの構築に大きな役割を果たしています。ルソーの小説がスタンダールの作品に及ぼした多面的な影響を探ってみましょう。
情熱と義務の対立
『新エロイーズ』と『パルムの僧院』の両作品において、中心となるテーマは、抑圧的な社会的規範に反発する、抗いがたい情熱と義務の対立です。ルソーの小説では、身分違いの愛に苦悩するジュリー・ドゥ・タンスとサン＝プルが主人公です。同様に、『パルムの僧院』では、若き貴族のジュリアン・ソレルと、既婚女性マチルド・ド・ラ・モールとの許されぬ恋が描かれます。どちらの作品も、愛と欲望、社会の期待、道徳律との葛藤を探求し、登場人物たちは個人的な幸せと社会的責任の板挟みになって苦悩します。
感情と内省の重視
ルソーは、感情と内省を重視するロマン主義の先駆者であり、彼の作品は『パルムの僧院』の感情的な深みに大きな影響を与えています。『新エロイーズ』は、登場人物の心の動きを、その書簡を通して生々しく克明に描いています。同様に、スタンダールはジュリアン・ソレルの内面世界を深く掘り下げ、その野心、不安、愛と苦悩に満ちた心の揺れ動きを鮮やかに描いています。どちらの作品も、人間の感情の複雑さを探求し、理性よりも感情を重視しています。
自然の理想化
自然を理想化する考え方は、『新エロイーズ』と『パルムの僧院』の両作品において共通する重要な要素です。ルソーは、自然は人間の感情にとって調和と真実の源であると信じていました。この考え方は、自然の中で登場人物たちが慰めと安らぎを見出すという形で、小説の中に表現されています。同様に、スタンダールの作品でも、とりわけジュリアン・ソレルが自然の中に身を置くことで、社会の制約から解放され、本来の自分と向き合う場面が描かれています。自然の描写は、登場人物の感情の高ぶりを際立たせ、社会の腐敗に対する対比として機能しています。
社会批判
ルソーとスタンダールの両作家は、当時の社会に批判的な見方を持ち、その作品を通じて社会の不平等や偽善を糾弾しています。『新エロイーズ』は、身分制度の不条理と、個人の自由を阻害する社会の慣習を批判しています。同様に、『パルムの僧院』は、復古期のフランス社会における階級格差、野心、偽善を痛烈に風刺しています。どちらの作品も、社会構造と人間の幸福との関係性を問うことで、読者に社会の矛盾について深く考えさせています。
書簡体形式の影響
『新エロイーズ』が書簡体小説であることは、『パルムの僧院』の構成と語り口に大きな影響を与えています。ルソーは、書簡という形式を通して、登場人物たちの率直な感情や考えを表現することに成功しています。スタンダールもまた、ジュリアン・ソレルの内面世界を描き出すために、書簡や日記の形式を効果的に用いています。書簡体形式は、読者を登場人物の個人的な空間に引き込み、彼らの心の動きをより身近に感じさせる効果があります。
結論
『新エロイーズ』は、『パルムの僧院』のテーマ、登場人物、語り口に多大な影響を与えています。情熱と義務の対立、感情の重視、自然の理想化、社会批判、書簡体形式といった要素は、ルソーの作品からスタンダールの作品へと受け継がれ、より洗練された形で表現されています。スタンダールは、ルソーの思想を独自に解釈し、19世紀フランス社会の現実と重ね合わせることで、時代を超えて読み継がれる傑作を生み出したと言えるでしょう。