## スタンダードールの赤と黒の話法
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自由間接話法
「赤と黒」の特徴的な話法として、自由間接話法が挙げられます。これは、三人称小説でありながら、登場人物の心情や思考を、地の文と混在させることで、まるで読者が登場人物の心の中に入り込んだかのような錯覚を与える手法です。
例えば、ジュリアンがパリで社交界に足を踏み入れる場面では、彼の内面は以下のように描写されます。
> ジュリアンは、自分が何を話せばいいのか分からなかった。彼は自分の無知を痛感し、自分が場違いな存在であるかのように感じていた。(中略)しかし、彼は同時に、この華やかな世界に魅力を感じていた。(中略)彼は、いつか自分もこの世界の一員になれるだろうかと自問自答していた。
上記の文章では、地の文とジュリアンの内面がシームレスに繋がっていることが分かります。地の文である「ジュリアンは、自分が何を話せばいいのか分からなかった。」から、そのまま彼の内面である「彼は自分の無知を痛感し…」へと移行しています。このように、地の文と登場人物の内面を境界線を曖昧にすることで、読者はジュリアンの戸惑いや焦燥感、そして野心をよりリアルに感じ取ることができます。
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皮肉と風刺
スタンダールは、自由間接話法を用いることで、登場人物の心理描写を深めると同時に、彼らが身を置く社会に対する痛烈な皮肉や風刺を表現しています。
例えば、社交界の人々の会話は、しばしば空虚でうわべだけのものとして描かれます。登場人物たちの言葉の裏にある本音や計算を、自由間接話法によって読者に伝えることで、当時のフランス社会の虚偽性を浮き彫りにしています。
また、教会や貴族社会における偽善や腐敗も、登場人物たちの内面を通して描かれます。彼らの心の奥底にある欲望や野心を描き出すことで、当時の社会構造や権力関係を批判的に照らし出していると言えるでしょう。
スタンダールは、これらの話法を巧みに駆使することで、登場人物たちの心理を深く掘り下げると同時に、当時のフランス社会をリアルに、そして批判的に描き出しています。「赤と黒」は、単なる恋愛小説ではなく、人間の欲望や社会の矛盾を鋭くえぐり出した、時代を超えた傑作として読み継がれています。