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スタンダル「パルムの僧院」の思想的背景

## スタンダル「パルムの僧院」の思想的背景

### 18世紀末から19世紀初頭のフランスを揺るがした思想的潮流

スタンダールの『パルムの僧院』(1839年)は、フランス復古王政期(1814-1830年)を舞台に、ナポレオン戦争後のイタリアを舞台に、主人公ファブリスの愛と冒険を描いた作品です。この作品は、単なる恋愛小説の枠を超え、18世紀末から19世紀初頭のフランスを揺るがした様々な思想的潮流を反映しています。

### 啓蒙主義の遺産とロマン主義の台頭

まず、18世紀の啓蒙主義の影響は、理性の重視、社会的不公正への批判、個人の自由と幸福の追求といったテーマに見て取れます。主人公ファブリスの、教会の権威や社会の慣習にとらわれない生き方は、啓蒙主義的な個人の自由と幸福の追求という思想と重なります。

一方で、『パルムの僧院』は、情熱や感情を重視するロマン主義の影響も色濃く受けています。ファブリスの激しい恋愛感情、クレリアやジナの献身的な愛、そして、イタリアの風景描写などは、ロマン主義文学の特徴をよく表しています。

### イタリアという理想郷とフランス社会への批判

作品の中で、イタリアは情熱と芸術の国として描かれ、当時のフランス社会とは対照的な理想郷として機能しています。これは、スタンダール自身のイタリアに対する憧憬を反映していると考えられています。スタンダールは、フランス社会の偽善性や物質主義を批判し、イタリアの自由な空気や芸術性を高く評価していました。

### ジャンセニスムの影響:人間の宿命と情念の葛藤

また、スタンダールが青年期に影響を受けたジャンセニスムの影響も見逃せません。ジャンセニスムは、人間の原罪と神の恩寵を説く宗教思想で、人間の意志の弱さと情念の罪深さを強調します。

『パルムの僧院』においても、ファブリスやクレリアの愛は、社会的な制約や道徳観念との葛藤を生み出し、彼らを苦しめます。この点において、ジャンセニスムが説く人間の宿命と情念の葛藤が反映されていると言えます。

### まとめ:多様な思想が織りなす豊かな世界観

『パルムの僧院』は、啓蒙主義、ロマン主義、ジャンセニスムといった多様な思想を背景に、複雑な人間心理や社会の矛盾を描いた作品です。スタンダールは、これらの思想を独自に消化し、19世紀前半のフランス社会と人間の普遍的な姿を描き出しました。

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