スタインベックの怒りの葡萄の表現
描写と象徴
スタインベックは、『怒りの葡萄』の中で、登場人物、風景、そして社会状況を描写するために、力強く鮮やかな表現を駆使しています。自然の描写は、特に印象的で象徴的であり、物語のテーマと登場人物の感情と密接に結びついています。
例えば、干ばつに苦しむ大地は、ジョード一家が直面する困難と絶望を象徴しています。乾燥してひび割れた大地は、彼らの生活の不毛さと不安定さを反映しています。一方、カリフォルニアへ向かう途中で出会う雄大な自然、特に豊かな果樹園は、一見すると希望と豊かさの象徴のように見えます。しかし、これらの果樹園は、実際には、貪欲な地主によって支配されており、貧しい移住労働者を搾取するシステムの一部となっています。
さらに、スタインベックは比喩や擬人化などの修辞技法を駆使することで、登場人物の感情や状況をより鮮明に描き出しています。例えば、物語の冒頭で、干ばつに見舞われた大地は、「焼けつく太陽の下で縮み上がり、乾ききった唇のようにひび割れていた」と描写されています。この比喩表現は、大地の荒廃と、そこに住む人々の苦しみを、読者に強く印象づけます。
また、スタインベックは、登場人物の行動や言葉を象徴的に用いることで、物語に深みを与えています。例えば、トム・ジョードが物語の後半で、ケーシーの意志を継いで、弱い者たちのために戦うことを決意する場面は、希望と連帯の象徴として描かれています。
リアリズムと自然主義
スタインベックは、『怒りの葡萄』において、リアリズムと自然主義の手法を用いて、1930年代のアメリカにおける社会の現実を克明に描き出しています。彼は、移住労働者たちの貧困、飢餓、そして搾取を、包み隠さず描写することで、読者に強い衝撃を与え、社会的不正義に対する怒りを喚起しています。
例えば、ジョード一家が、カリフォルニアへの道中で直面する過酷な状況は、リアリズムの手法を用いて、克明に描写されています。彼らは、わずかな食料と水で生活し、粗末なテントで寝起きし、病気や死に脅かされながら旅を続けます。スタインベックは、彼らの苦しみをありのままに描写することで、読者に当時の社会状況の深刻さを突きつけます。
また、スタインベックは、自然主義の手法を用いて、登場人物たちが置かれた状況が、社会構造や経済状況によって決定づけられていることを示唆しています。ジョード一家は、勤勉で正直な人々ですが、大恐慌と旱魃の影響で、土地を追われ、カリフォルニアへと移住せざるを得なくなりました。彼らは、新しい土地でより良い生活を送ることを夢見ていましたが、そこでも貧困と搾取が待ち受けていました。彼らの運命は、彼ら自身の選択ではなく、社会構造によって決定づけられていたのです。