スタインベックの怒りの葡萄の美
美しさの描写：自然への眼差し
スタインベックは自然描写の達人であり、「怒りの葡萄」においてもその手腕を遺憾なく発揮しています。乾燥して荒廃した大地、灼熱の太陽、そして雄大な夜空など、自然の姿をありのままに描き出すことで、物語の世界観を構築しています。 特に印象的なのは、厳しい環境の中でも力強く生きようとする動植物の姿です。例えば、乾いた大地にしがみつくように根を張る植物や、過酷な環境を生き抜く昆虫たちの描写は、生命の力強さを感じさせます。 また、自然の描写は、登場人物たちの心情と密接に結びついている点も見逃せません。例えば、ジョード家がオクラホマを後にする場面では、荒涼とした大地の描写が、彼らの不安や絶望感をより一層際立たせています。 一方で、カリフォルニアへの道中で目にする雄大な景色は、彼らの希望や期待を象徴しているようにも見えます。
美しさの描写：人間の尊厳と連帯
「怒りの葡萄」は、経済的に困窮し、社会的に追い詰められた人々の姿を描いた作品です。貧困、飢餓、差別など、目を背けたくなるような現実が容赦なく突きつけられます。 しかし、スタインベックは、そうした過酷な状況下にあっても、人間としての尊厳を失わず、助け合って生きていこうとする人々の姿を、力強く描いています。 例えば、ジョード一家は、旅の途中で出会った他の家族と助け合い、励まし合いながら、カリフォルニアを目指します。 彼らは、苦難を分かち合うことで、家族の絆をより一層深めていくのです。 また、作中には、労働者たちを搾取する農場経営者や、貧しい人々を蔑む人々など、人間の醜い側面も描かれています。 しかし、スタインベックは、そうした悪を糾弾する一方で、人間に対する希望も捨てていません。 作中の随所に、人間の善意や愛情、そして連帯の力強さが描かれている点は見逃せません。