スタインベックの怒りの葡萄の思想的背景
思想的背景:1930年代のアメリカ社会とニューディール政策
「怒りの葡萄」が執筆された1930年代のアメリカは、世界恐慌の影響で深刻な経済不況に陥っていました。農村部では、干ばつによる砂嵐(ダストボウル)も重なり、多くの農民が土地を追われ、カリフォルニアなどの西部の州へ仕事を求めて移動しました。しかし、そこでも待遇は劣悪で、貧困と飢餓に苦しむ人々が後を絶ちませんでした。
当時のフランクリン・ルーズベルト大統領は、このような状況を打開するために、ニューディール政策と呼ばれる一連の経済政策を実施しました。これは、政府による公共事業の創出や農業の保護など、積極的に経済に介入することで不況から脱却しようとする試みでした。
スタインベックの視点:社会的不正義への怒りと集団の力への希望
スタインベックは、「怒りの葡萄」の中で、このような時代背景を踏まえ、社会の底辺に生きる人々の苦しみと怒りを生々しく描いています。彼は、作品を通して、経済的な搾取や社会的な不平等といった問題を告発し、弱者に対する共感と人間の尊厳を訴えました。
特に注目すべきは、物語が進むにつれて、ジョード一家が個人主義的な考え方から、助け合い、連帯することの重要性に気づいていく過程です。これは、スタインベックが、当時の社会状況に対する解決策として、労働者階級の団結と集団的な行動に希望を見出していたことを示唆しています。
「怒りの葡萄」は、出版当時、その社会的なメッセージ性から大きな反響を呼びました。一部からは批判も浴びましたが、多くの人々の共感を呼び、アメリカ文学史に残る傑作として、今日まで読み継がれています。