スタインベックの怒りの葡萄の対称性
章の構成
スタインベックの怒りの葡萄は、大きく分けて二つの物語が交互に展開されるという特徴的な構成を持っています。前半は、ジョード一家をはじめとするオクラホマの農民たちが、土地を追われカリフォルニアを目指すロードノベルとして描かれます。一方、章と章の間には、移住農民全体の窮状や社会背景を描写した、いわばインターカプター(挿入章)が配置されています。
個と全体の対比
ジョード一家個々の物語は、インターカプターで描かれるより大きな社会問題と対になっています。例えば、ある章では干ばつによって土地を失った農民一家の苦難が具体的に描かれ、次の章では機械化による農業の変容と、それに伴う大量の失業者を生み出す社会構造が浮き彫りにされます。このように、個別の物語と社会全体の状況を対比させることで、スタインベックは読者に問題の根深さを訴えかけています。
自然描写
自然描写もまた、作中に繰り返し登場する重要な要素です。特に、過酷な自然環境は、作中で様々な象徴的な意味合いを持ちます。例えば、オクラホマの乾燥した大地は、農民たちの貧困と絶望を象徴しています。一方、カリフォルニアの豊かな自然は、一見すると楽園のように見えますが、そこでも農民たちは搾取と貧困に苦しめられます。このように、自然描写は、登場人物たちの置かれた状況や心情を反映する鏡のような役割を果たしています。
聖書との関連性
スタインベックは、聖書のモチーフを作中に散りばめることで、普遍的なテーマを表現しています。例えば、ジョード一家は、旧約聖書の出エジプト記に登場する、エジプトを脱出して約束の地を目指すイスラエルの民と重ね合わせることができます。また、作中には、慈悲、犠牲、贖罪といったキリスト教的なテーマも織り込まれており、読者に人間の道徳や倫理について深く考えさせる契機を与えています。