ジンメルの生の哲学に影響を与えた本
ショーペンハウアー『意志と表象としての世界』の影響
ゲオルク・ジンメルは、19世紀末から20世紀初頭にかけてドイツで活躍した哲学者、社会学者です。生の哲学、文化論、都市論、貨幣経済論など、多岐にわたる分野で独自の思想を展開しました。ジンメルの思想は多面的で、一筋縄ではいきませんが、その根底には常に「生」への深い洞察があります。
ジンメルの生の哲学に大きな影響を与えた一冊として、アルトゥル・ショーペンハウアーの主著『意志と表象としての世界』が挙げられます。ショーペンハウアーはこの著作で、世界の本質を「意志」として捉え、個別の現象は全てこの「意志」の表れであると論じました。理性によって把握可能な現象世界の背後には、絶えず生成変化を続ける盲目的で非合理的な「意志」が渦巻いており、人間を含む全ての生き物は、この「意志」に突き動かされて生きているとされます。
ショーペンハウアーの思想は、当時の支配的な思想であったヘーゲル哲学の体系的な合理主義とは対照的なものでした。ヘーゲルは、理性によって世界は完全に認識可能であると考えましたが、ショーペンハウアーは、世界の本質は人間の理性では捉えきれない非合理的な「意志」であると主張したのです。
ジンメルは、ショーペンハウアーのこの「意志」の概念を、自らの生の哲学の基盤として取り入れました。「生」は、理性によって完全に把握することのできない、絶えず流動し、矛盾と葛藤に満ちたプロセスです。ショーペンハウアーの「意志」の概念は、ジンメルにとって、この「生」のダイナミックで混沌とした側面を表現するのに最適なものでした。
ジンメルは、ショーペンハウアーの影響を受けながらも、独自の思想を展開していきます。ショーペンハウアーは、「意志」からの解放を説きましたが、ジンメルは、「生」の矛盾や葛藤そのものを肯定的に捉えようとしました。生は苦悩に満ちたものであると同時に、喜びや創造性をもたらす源泉でもあるからです。