## ジョイスの若い芸術家の肖像の原点
スティーブン・ヒーロー:初期バージョンと発展
「若い芸術家の肖像」は、ジェイムズ・ジョイスが最初に構想したものではなく、実際には、より初期の作品から発展したものです。1904年から1905年にかけて、ジョイスは「スティーブン・ヒーロー」という題名の小説を執筆していました。この作品は、アイルランドのカトリックとナショナリズムの抑圧的な雰囲気の中で、芸術家としての自己発見を経験する、スティーブン・デダラスという名の若い主人公を描いたものでした。
拒絶と変容
「スティーブン・ヒーロー」は、その率直な内容と実験的なスタイルのために、いくつかの出版社から拒否されました。この拒絶は、ジョイスが作品の構成と焦点を根本的に見直すきっかけとなりました。彼は「スティーブン・ヒーロー」を破棄するのではなく、それをより洗練され、客観的な物語に作り直すことを選択し、これが最終的に「若い芸術家の肖像」へと進化しました。
自伝的要素
「スティーブン・ヒーロー」と同様に、「若い芸術家の肖像」は、ジョイス自身の生い立ちや知的、芸術的な発展を色濃く反映しています。ジョイスとスティーブン・デダラスはどちらもダブリンの敬虔なカトリックの家庭で育ち、イエズス会の学校に通い、その後、文学と芸術への情熱を育みました。小説の多くの出来事や登場人物は、ジョイス自身の人生における実体験や人物に基づいています。
美的理論の影響
「若い芸術家の肖像」の執筆には、ジョイスの美的理論の発展が大きく影響しました。ジョイスは、アリストテレスの概念を基にしたトマス・アクィナスの美学、特に「全体性」、「調和」、「輝き」の3つの要素を重視していました。これらの要素は、スティーブンが芸術家としての自分の召命を受け入れるにつれて、小説全体を通して探求され、表現されています。